トラックドライバーの声を全く理解していない…中・大型車「AT限定免許」新設に失望する理由【物流2024年問題】

国内 社会

  • ブックマーク

準中型免許廃止がより効果的

 今回のAT免許創設の狙いは、運転をしやすくして女性や外国人労働者、特に「若者」の業界参入を促そうとするものであることは明らかだ。

 しかし、本当に若者を入れたいのであれば、真っ先にすべきは「新免許の導入」ではなく、「準中型免許の廃止」や「そもそもの免許制度の見直し」である。筆者が現役のトラックドライバーだったころ、普通免許があれば、現在の中型トラックに乗れた。つまり18歳で普通免許を取得すれば、すぐに4トン車に乗れたのである。

 それが現在では、安全性を理由に中型免許が創設された。中・長距離輸送でよく使われるのは中型車以上のトラックだ。しかし、中型免許を取得するには、普通免許を取得してから2年以上、大型免許は3年以上経過していなければならず、高校卒業後に社会人になる学生から、運送業界が進路先として選ばれなくなってしまい、今度は免許取得年数の制限がない「準中型免許」を導入した。

 結果的に「普通」「準中型」「中型」「大型」の4種類に細分化されたのだが、これこそがコストや手間という、若手が参入するのに厚い「障壁」となっているのだ。

 国は一昨年、普通免許を取得して1年後に中・大型免許を取得できる特例講習を新設した。ここでも「今までの規制は何だったのか」というくらい、極端な規制緩和がなされたわけだが、多くの若者たちへ業界参入を促すには、今回のような中・大型AT限定免許の導入ではなく、抜本的な免許制度の見直しをすべきなのだ。

 筆者が毎度個人的に思うのは「なんでも緩和すれば現場の問題が解消されると思ったら大間違いである」ということだ。

 元々「ブルーカラーの花形」とまで言われていた運送業界がこれほどまでに稼げなくなった理由は、過去に業界の大改悪とも言われた「規制緩和」がある。新規参入のハードルを下げ、過当競争が発生した結果、現場は低賃金・劣悪な労働環境に様変わりした。

 そんな過去の経験があるにもかかわらず、国は2024年問題対策として規制緩和を乱発。高速道路の速度引き上げや、外国人労働者受け入れ、そして今回のAT限定免許の導入などは、「とにかく頭数さえ揃えればいい」と、手あたり次第人材をかき集めているように映る。

 そもそも、若者や新規でトラックドライバーになりたい人たちにとって「障壁」になっているものは、「MTかAT」でも「教習期間の長さ」でもない。「劣悪な労働環境と賃金の安さ」にあるのだ。

 毎度外堀ばかりを埋めたり、入口を緩めたりしても、参入して現実を知った新規の労働者はすぐに辞めていく。「入る障壁がなくなる」、ということは「辞める障壁もなくなる」ということを、国はどこまで真剣に考えているのだろうか。出入りの激しい業界は、成長だけでなく安全性や秩序も保てなくなる。こうした愚策が、結果的に現場の労働環境や社会的地位を下げる原因になるということに、いつになったら気付くのだろうか。

橋本愛喜(はしもと・あいき) フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。