24時間体制で1体3時間、1日200体…インド全土から死者が集まるガンジス川「野外火葬場」潜入記

国際

  • ブックマーク

「もっと知りたいなら、私にお金を」

「もっと知りたいなら、私にお金を。私はすぐそこのホスピスのスタッフ。ここは普通の人を焼く場所だけど、私にお金を払うと金持ち用の火葬場も見せてあげる」と営業トークをなさった。

 私はまだそういうのに慣れていなかったから、怪しい、と思って断って、その夜はただただ静かに見学して、火葬場のエリアをあとにした。火葬場から100メートルほど離れた階段のところに、サリーを着た6、7人の女の人がかたまって座り、全員に涙の痕跡があった。遺族だ、と思った。

「Sさんはお父さんを見送ってからまだ日が浅いから、火葬場が苦手なのでは。バナーレスで火葬できたことは誇りだけど、リアルを思い出すと辛い。そんな感じみたい」

 と、待っていてくれた前田くんが、Sさんが去った後で言う。「Sさんの気持ち、なんとなく分かるよねー」と言い合いながら、ホテルに戻る(仕事とはいえ、しんどい思いをさせて、Sさんごめんなさい)。

 ***

 インドのヒンドゥー教徒が誇りとする「バナーレスでの火葬」。お墓の概念がない地域ではどのように遺骨を扱うのか? また「女性遺族は立ち入り禁止」の理由とは? 後編では火葬の具体的な手順などをお伝えする。

後編【遺体は裸でテカテカ、女性遺族は立ち入り禁止、なぜか水牛のお乳が…インド・ガンジス川の野外火葬場で見た驚きのしきたり】へつづく

井上理津子(いのうえ・りつこ)
ノンフィクションライター。著書に『さいごの色街 飛田』、『葬送の仕事師たち』(ともに新潮社)、『絶滅危惧個人商店』(筑摩書房)、『師弟百景』(辰巳出版)などがある。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。