はたして蓮舫氏に「選挙妨害」を批判する資格はあるのだろうか 東京15区「場外乱闘問題」の背景

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選挙妨害がやりやすくなったのは誰のせいか

 この件に関して、蓮舫氏は「警察の対応が遅くて怖かったです」と書き込んだ。

 私は苦笑を禁じえなかった。なぜなら警察が対応しづらい状況を作ってしまったのは、ほかならぬ左派勢力の人たちだからである。私には蓮舫氏の書き込みは、いつものブーメランの類に思えてならなかった。

 2019年、札幌市で街頭演説をしていた安倍晋三首相(当時)は男女にヤジを飛ばされた。1人の男性は「アベヤメロ!」もうひとりの女性は「増税反対!」と叫んだ。男性は北海道警の警察官に現場から排除された。警察官は「選挙の自由を妨害してはいけない」「他の人や演説者に迷惑」と話したという。

 これに対して、男女は「表現の自由を侵害された」として、北海道に計660万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。札幌地裁の広瀬孝裁判長は訴えを認め、道に計88万円の賠償命令を出したのである。しかもその約3カ月後の2022年7月8日、安倍晋三元首相は奈良市で演説中に凶弾に斃れた。

 安倍元首相の暗殺事件後に開かれた札幌高裁(大竹優子裁判長)の判決公判でも、大竹裁判長は、男性の訴えこそ退けたが、女性の訴えは認め、1審の女性に対する55万円の賠償命令は維持した。

 問題は、いずれの判決も「ヤジは表現の自由」とする原告側の主張の根幹部分を認め、道警の排除は「表現の自由の侵害に当たる」と判事したことである。これで萎縮しない警察があるだろうか。

 この一件で北海道のメディアは、こぞって道警の対応を批判し、地元HCB(北海道放送)のデスク職の男性は自らメガホンをとって、「ヤジと民主主義」というドキュメンタリー映画まで作った。この訴訟の原告の女子大生は、その後、労組の専従職員となり、書記次長となっている。この労組の上部団体は自治労であり、立憲民主党の支持母体である。

 そして、今回の補選で警察の迅速な対応を求めていた蓮舫参院議員は2019年7月、前述の裁判闘争となった安倍首相(当時)へのヤジについて「この(北海道警の)排除の在り方はおかしい」とXに投稿している。

 こうした混乱を受けて、ついに松本剛明総務相は23日、会見で「公職選挙法の自由妨害罪などの処罰対象となりうる」との認識を示した。

 ヤジは「表現の自由」として認められるのだろうか。

 もちろん、ちょっとしたヤジを飛ばした者までも警察が弾圧するのは行き過ぎだろう。しかし、北海道の件でいえば、警察は妨害をやめるよう排除しただけであり、誰かを逮捕したわけではないのだ。

 その一方で明らかに最初から妨害を目的とした者による執拗なヤジも「自由」としていいのだろうか。周囲の聴衆が演説を静かな環境で聞く権利というものは認められないのだろうか。蓮舫氏に問うてみたい。

 死刑制度とこの問題は自らが当事者になってみないと実感できないのかもしれない。札幌のヤジ訴訟は最高裁に上告されており、係属中だ。

 今回の東京15区補選の場外乱闘は、演説妨害を「表現の自由」として、褒めたたえていた政治家を含む人々とそれを後押しするマスコミ、司法も、その姿勢、あり方を問う一件だったと思う。

三枝玄太郎(さいぐさ・げんたろう)
1967年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』など。5月に新刊『メディアはなぜ左傾化するのか 産経記者受難記』刊行予定。

デイリー新潮編集部

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