入院中のK機長を目撃して「これは明らかにおかしい…」 羽田沖日航機墜落事故はなぜ1人も起訴できなかったのか【警視庁元鑑識課長の証言】

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堂々と連行されることが被害者への償い

 捜査の大詰めでは、田宮が弁護人役、捜査員が検事役となって模擬法廷を繰り返し、捜査に不備がないか、証拠固めの検討を何回も行った。焼け残った部屋の建材で出火した部屋を再現した上で燃焼させるという実験も行なった。

 逮捕のXデーは11月18日、監視を続けていた愛人宅で横井は逮捕された。

 田宮は、「捜査本部の部下を通じ、横井には『一世一代の悪役なんだから、ちゃんと顔を見せろ。堂々と連行されることが被害者への償いだ』と言っておいた」という。その通り、横井英樹はロングコートを襟まで留めた姿で顔を隠すことなく、フラッシュを浴びながら警視庁本部に連行された。

 東京地裁は、横井英樹に業務上過失致死傷罪で禁錮3年の実刑を言い渡し、上級審の東京高裁、最高裁でもこれが支持され、刑が確定した。田宮たちの捜査の執念が実ったのである。

焦点はK機長を逮捕できるか否か

 一方の日航機墜落事件。こちらで焦点となったのは、果たしてK機長を逮捕できるか否かだった。K機長は事故後、腰椎骨折の治療で西新橋の慈恵医科大病院に入院していた。

 事故後の機体の調査では、逆噴射装置が作動したことが証明されていた。さらに副操縦士や機関士の証言で、墜落直前のK機長の異常な行動が明らかになっていた。

 彼の異常さについては、さまざまな情報が田宮のもとに集まってきた。事故以前の飛行の中での、急上昇や急旋回、ロンドンなど外国の空港での異常なスピードでのタクシング(空港内の走行)など。また自宅で「天井裏にだれかが潜んでいる」と言い出し、警察に連絡するなどの騒ぎを起していたことも判明した。

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