ホテル・ニュージャパン火災発生直後、ロビーで目撃した横井社長の意外な行動 警視庁鑑識課長の「呪われた48時間」

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鑑識課員全員の招集を即断

 鑑識課長としてまず頭にあったのは、現場検証のことだった。すでに鑑識課の現状班(事件の発生に備えている班)が現場に入っていたが、田宮は百数十名いる鑑識課員全員に招集をかけることを即断した。まずは人命救助、そして現場検証を迅速に進めるためだ。

 昼ごろ、火災は鎮火の方向に向かう。炎がおさまるのを待って、田宮たちはホテルの中に入った。1階のロビーには、上階から避難してきた宿泊客が大勢いて、負傷者がソファや床の上で手当てを受けていた。

 焼け焦げた臭いの中、放水で水浸しになったホテルの各階を歩き回り、逃げ遅れている宿泊客がいないか確かめた。上階に近づくと、死亡した宿泊客が廊下の両側に毛布やシーツをかけられたまま転がっていた。

 ホテル・ニュージャパンの火災の火元は、9階の938号室である。後に行われた鑑定の結果、ベッドの上にこぼれたたばこの火が炎となり、壁沿いに立ち上って天井裏に達し、横に広がったことが明らかになった。

「炎はいったん天井裏に抜けたら、横に広がるのが速い。これをフラッシュオーバー現象といって、火災に多い事例です。アパート火災などでも、自分の部屋の天井裏に火が回っているのに気づかず、まだ大丈夫だと思っていて、逃げ遅れてしまうケースが多い」

名門ホテルとは名ばかりの粗雑な建物

 大惨事になってしまった要因として、当初からホテル側の防災体制が疑問視されていた。

 まず、非常ベルの電源が切られていた。設備はあったものの誤報が多く、その度に点検するには要員が足りないということで切られていたのだ。

 また暖房設備の外気取り入れ口が閉鎖されていた。冷たい外気を取り入れると暖房費が余計にかかるというのがその理由である。ホテル内は汚れた空気が循環するだけで、カラカラに乾燥していた。火がついたらあっという間に燃え広がるのは必然だった。

 さらにスプリンクラーが役目を果たしていなかった。消防からの再三の指摘でスプリンクラーの金具は付いていたが、天井裏にあるはずの配管がなく、まったくの見かけ倒しだったのだ。隣室との壁も粗雑だった。壁紙が焼け落ちた後には、いくつもの穴があいており、そこが火の通り道になっていた。名門ホテルとは名ばかりの、元来粗雑な建物だったのだ。

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