「アダルト動画」に無断で自分の声が…“声優”業界が「生成AI」に危機感をあらわにする切迫した事情

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生成AIを法規制すべき

――生成AIについて、今後具体的にどのような法整備や規制がなされるのが望ましいと考えていますか。

福宮:まずは、著作権法30条の4項を変えてほしいですね。現行の法では、著作権者の許諾なく生成AIに著作物を学習させることを認めているのです。この法律があるために、また昨今の状況を見て、自身の作品をSNSなどで公表することに抵抗を感じるとの声を多く耳にします。これでは文化の発展どころか、文化が衰退していくことになりかねません。特に生成AIについては、機械学習をさせるものも従来の著作権と同様、許諾を得たものにするべきだと思います。それから、肖像権やパブリシティ権を明文化し、顔や名前だけでなく、声についても入れることが大事だと思います。文化庁は生成AIを既存の著作権法で裁こうとしていますが、人は1時間に絵を1万枚描くことはできませんから、同じように扱うべきではないと思います。将来的には「AI法」を作り、一定の規制を設けるべきではないでしょうか。

――しかしながら、生成AIの絵柄の学習まで規制をしてしまうと、自由な創作を抑制するのではないかという意見もあります。

福宮:今までは、絵柄、作風、アイデアに規制をかけてしまうと、他の人の想像力を妨げるという意見があり、これは文化の発展に寄与しないと判断されてきました。これを生成AIに当てはめるべきではないでしょう。人とは違い、生成AIは無尽蔵に絵を作り出せるのですから、明確に著作権の侵害にあたり、クリエイターのビジネスを阻害する行為だと思います。繰り返しますが、生成AIは人とは違うということを、理解していただきたいと思います。

――具体的にはどのような対策をするべきでしょうか。

福宮:生成AIの運用を見直し、学習するデータは著作者が許可したものだけにしてほしいです。生成AIを使った創作物は、その旨を表示することを義務化し、トラッキングができるようにしてほしい。そして、生成AIでフェイク動画などを作ることは犯罪にあたることを明確に打ち出し、周知させることが大切だと思います。

コンテンツの凄さをもっと認識してほしい

――国会議員や政治に望むことはありますか。

福宮:経済界の声ばかりを聞いているように思うので、現場の、市民の声を積極的に聞いてほしいですね。企業の論理だけで物事を決めると、個人のクリエイターが生きづらい社会になってしまう。個人の権利が焦点になっているものに対し、“文句”とは言わずに、意見として取り入れてほしいですね。あとは、日本のコンテンツの凄さにも目を向けてほしいと願っています。

――おっしゃる通りですね。日本の漫画やアニメは世界に評価されているのに、経済界や政界の関心はいまひとつだと思います。

福宮:政府が進めたクール・ジャパンのプロジェクトは、外に発信していくことで国際競争力を高めようというものでした。ところが、アニメ業界の、とりわけ現場レベルでは微塵も恩恵を感じられません。技術継承や人材育成が進まず、土台が崩れそうになっています。特に、人材育成は今から対応しておかないと、世界に誇る日本のアニメ技術がロスト・テクノロジーになってしまいます。

――福宮さんは、日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)でアニメ業界の人材育成にも取り組んでいますね。

福宮:NAFCAは2023年に立ち上がった団体ですが、現場で活躍しているアニメーターも多くいますし、外の立場から意見をくれる人も関わっているので、バランスのいい組織になっていると思います。政治家のみなさんには、現場に話を聞きに行って、政策を立ててほしいですね。

山内貴範(やまうち・たかのり)
1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。

デイリー新潮編集部

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