「深谷の叔父貴、殺してくれねえか、もう許せねえ」 心酔する“従兄弟”の命令で連続殺人犯になった男は、なぜ公判で“裏切った”のか
「これ、いけないと思った」
こうして高橋は新井の指示を受けながら、Bさんに睡眠薬入りの飲み物を飲ませ、寝入ったBさんを風呂場の浴槽に沈めて殺害した。Bさんの遺体は、こうした事情を何も知らない新井の親族が発見し、その後、通報している。だが、事故として扱われ、事件化されることはなく、高橋らはまんまと死亡保険金を手に入れた。
「わあ、すごいなと思いました。新井さんは“妖怪退治は罪にならないからな”とも言ってました。Bさんは何でも食べてしまう人だったから、普段、“お口の妖怪”とかそのように言ってて、だから妖怪退治だと言ったんだと思います」
3600万円のうち800万円が高橋の取り分、残りの2800万円は新井に渡った。
Bさん殺害の翌年、事件発覚の発端となったAさん殺害についても、Aさんの会社の金を無断で引き出したことでトラブルになっていた新井から「深谷の叔父貴、殺してくれねえか、もう許せねえ」と言われた高橋が、軍手をはめて包丁を持ち、合鍵で入室し、殺害した。現場でも新井にメールで逐一指示を仰ぎ、動いていたという。
このように高橋は、かつて心酔していた新井からの指示を受けて殺害を実行したと証言した。対する新井は「高橋がひとりで殺害した」として無罪を主張していた。この場合、高橋が嘘をついて新井に責任を負わせようとしているか、もしくは新井が高橋に罪をかぶせようとしているか、どちらかの可能性が考えられる。だが、高橋は、逮捕後に2件の殺人を認めた経緯について「被害者の方々や遺族の方々のこと……自分を遺族の立場に置き換えて考えたとき、これ、いけないと思った」と、小さな声で言った。
判決でも、新井が主犯、高橋が実行犯と認められた。新井は死刑判決を不服として控訴、上告し、無罪を主張し続けたが、最高裁で死刑が確定する。一心同体だった従兄弟たちは、最終的に「体」役の高橋が意思を持ち、バラバラになった。
前編【「俺たちはマジンガーZだ。俺が頭で、お前が体だ」 年上の“従兄弟”を盲信した男が手を染めた「横浜・深谷連続殺人事件」の暗すぎる闇】からの続き
[2/2ページ]