藤井八冠が名人戦連勝 豊島九段の「懐かしの戦法」に師匠は「新たな工夫を加えている」
一進一退の攻防
ゆっくりとした展開となったが、藤井が30手目に盤の中央「5五」に角を進める。34手目に「8五」に桂馬を跳ねてきて急戦模様にも見えた。35手目に「豊島九段が『6五桂馬』と跳ねれば一挙に急戦模様です」と解説の伊藤真吾六段(42)が話したが、そこは「3九玉」と守りを固めて、じっくり構えた。藤井は「7七」に桂馬を早々に成り込ませて、ここに跳ねていた豊島の桂馬を取り、豊島がこれを銀で取り返す。この日は激しいぶつかり合いには至らず、39手目という少ない手数で豊島の封じ手となる。
翌25日の朝、立会人の森内俊之九段(53)の手で開封された封じ手は「2七歩打」。歩の守りがなかった危なっかしい2筋で早めに自陣に蓋をした。なんだか昔のオーソドックスな将棋に戻った印象だった。
そして豊島は41手目に「7六飛車」とした。これに対して藤井は93分の長考に沈んだ後、「5四歩」とした。
豊島の飛車は動ける範囲が狭隘(きょうあい)で狙われやすい状況だった。結局、飛車は桂馬で取られたが、その飛車を藤井は「1五」に打つ意表の手を見せた。通常、手持ちの飛車は好機に相手陣に打ち込み、横から攻撃することが多い。敵陣に打ち込み、一手動かせば、強力な竜になる。
ところが、そうではなかった。2日目の解説をした中川大輔八段(55)は「『1三』にいる嫌なと金を払うことと1筋からの攻撃の2つの目的ですが、私には全く思いつきませんでした」と驚いた。中盤、中川八段は「駒得は藤井さんのほうがずっと上回るが、形勢としては互角」と見ていた。藤井は歩を切らせると、香車を打たれたら今度は自身の飛車が詰んでしまうリスクもあった。
その後、一進一退の攻防を見せるが、59手目に自陣下段に角を戻す「5九角」という渋い手を見せる。この角を効かせて香車で藤井の飛車を追い込んでいったあたりでは、かなり優勢だった。しかし、その後、豊島が攻めあぐねるうちに形勢は藤井に傾き、最後に藤井玉が「8二」に逃げられて万事休した。
「意外」な戦法
勝った藤井は、豊島の「1四桂」を50手目に香車で取った「1四同香」を苦戦の原因と分析した上、「第1局、本局もどちらも中盤でミスが出てしまっているので、そこを改善していかないといけない」と話した。勝ちが見えてきた局面を訊かれると「『2四桂馬』と打って寄せの形が見えてきた」とした。それは豊島の投了のたった6手前のことで、難しい将棋だったのだろう。
連敗した豊島は「金をかわしたのが変だったですかね」と藤井の「7二銀打」とした守りに対して、117手目に「3六金」とした手を例示したが、どこが悪かったのか測りかねている様子だった。第1局のような明らかな失着こそなかったが、優勢だった戦局が終盤に徐々に逆転されていた。藤井の強さと言ってしまえばそれまでだが、豊島が肉薄していることは明らかだった。
中川八段が「50年くらい前、『先手の必勝型があるとすれば、ひねり飛車だ』と言われるほど猛威を振るった」と話すひねり飛車戦法を、今の名人戦で見るとは思わなかった。中川八段も解説中、盛んに言っていた通り本当に「意外」だった。
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