【大川原化工機事件】女性検事は「起訴できない。不安になってきた。大丈夫か」 裁判所に提出された生々しすぎる「経産省メモ」の中身
識者は反論
一方、警視庁公安部は、経産省を説得するために有識者の「お墨付き」を入手しようとする。大役を担ったのが安積伸介警部補(現・警部)である。捜査の目的は知らせず、当時、防衛医科大学学校長の四ノ宮成祥(註:正しくは示編に羊)教授に参考意見を求め、報告書を作成した。しかし、四ノ宮氏は筆者の取材に対し「言っていないことが書かれている」と話した。
警視庁公安部の「捏造」はこれにとどまらない。
東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授(公衆衛生)の聴取報告書は「結論としまして、貨物等の解釈は、定置した状態で(註・分解せずに)、装置内のあらゆる微生物を滅殺もしくは、除去すること、または(中略)特定の微生物をすべて死滅させて感染能力を失わせることができるもの」とある。
しかし、浦島氏はこれを読んで「この発言はした記憶がありません。私はそもそも、本件法令に関する知識は有しておりませんでしたので、私から本件法令の解釈を述べることはあり得ません」としている。
警視庁公安部は千葉大学大学院の清水健准教授(細菌学)からも聴取し、「結論としまして、生物兵器となりえる大腸菌やペスト菌を生きたまま粉体化することが可能な噴霧乾燥機であれば、装置内部を100度の高温状態にすることをもって、定置した状態でそれらの細菌を、死滅させることができるため、輸出規制貨物に該当すると判断します」と報告書を結んでいる。
ところが、これを読んだ清水氏は「私は本件法令やその解釈について専門的知見を有しませんから、輸出規制貨物に該当するか否かの判断を示すことなどそもそもできませんし、噴霧乾燥機の内部を100度の高温状態にすることができるかどうかもわかりませんから、私がこのようなことを説明するはずがありません」と驚きを隠さなかった。
警視庁公安部は噴霧乾燥機に滅菌・殺菌までには温度が上がらない部位があることを否定できなくなると、今度はその部分を「噴霧乾燥機内部ではない」とすり替えてゆく。余罪として捜査していた別の噴霧乾燥機では、製品回収容器はそもそも本体と分けられる構造ではなく一体であったため、当初は殺菌を要する内部と捉えていた。ところが、温度が上がらないことが明らかになると、牽強付会にも「内部ではない」とした。
当初、経産省貿易管理課は、警視庁公安部の法令解釈に否定的な見解を繰り返した。ところが公安部は、有識者が自分たちの法令解釈に沿う見解を示したように装った報告書を経産省に提出した。さらに控訴理由書は、公安部長が経産省の上層部に働きかけ、見解を捻じ曲げさせたとする。
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