【大川原化工機事件】女性検事は「起訴できない。不安になってきた。大丈夫か」 裁判所に提出された生々しすぎる「経産省メモ」の中身

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曝露された経産省メモ

 今年2月、大川原化工機側は控訴理由書を東京高裁に提出した。そこには、経産省と警視庁公安部、さらに公安部と東京地検の間での生々しいやり取りが再現されている。やりとりの多くは、昨年からNHKが何度も報じてきた「経産省メモ」と呼ばれる資料に書かれている。

 その経産省と警視庁公安部のやり取りの一部を見てみよう。

 公安部幹部は何とか大川原化工機の噴霧乾燥機を「該当」、つまり「規制違反に該当する製品」とするため、経産省との交渉を始めた。

 同省貿易管理課は2017年12月1日の打ち合わせで「元がレジームであり、日本だけ突出するわけにはいかない。他国との並びを見る必要がある」と回答する。レジームとはAGの取り決めのことだ。実際、加盟国でも英米はCIP付き、デンマークは蒸気滅菌機能付きを「該当」としている。

 同月5日には「(註・警視庁公安部が)ペスト菌の類似菌を殺菌できることを証明してきても、大川原社が日本薬局方の菌滅法に沿った実験結果をもって反証した場合、METI(同・経産省)として勝てないことから、該当と判断することができない」とした。

 8日にも「もし、裁判で該否が論点になり、大川原社が日本薬局方の乾熱滅菌法による実験をして、芽胞菌は滅菌も殺菌もできないという結果をもって反論してきたら、ペスト菌では勝てないと考えている」としている。芽胞菌とは加熱では容易に死なない菌のことだ。

 さらに、18年1月26日には「外為法で規制する噴霧乾燥機はCIP機能付き、蒸気滅菌機能を付すなど別の滅菌装置を付けた器械を対象とするとの意見が審査課において強い」としている。滅菌・殺菌の定義については「殺菌の定義がない以上は殺菌をもって該当とすると判断することはできない」としか言いようがないとしていた。

 それがある日、豹変する。

 同年2月8日、当時の経産省貿易管理課の笠間太介課長補佐の発言。

「デンマークでは大川原社と似たような器械を非該当としているとの回答を受けている」

「ただ、今回の器械が法令に照らして、該当の可能性があるのか、ないのかと言えばあると言えるだろう。当省の通常業務からすると、当事者から認識を確認した上、周辺業務を調査し、他国の運用状況を確認した上で結論を出したいところ。ただ、ガサ(註・家宅捜索)をやること自体、悪いことではないと考えている。ガサでいろんな情報を入手してきてもらいたい。特に相手企業がチャレンジしてくるのかどうか、してくるとしたらどのように繰るのか、事前に知っておきたい。私も警察にいたからわかるが、警察はガサに入った以上、何か結末をつけないと厳しいのでは。警察がガサに入ったから黒にしてくれ。できる規定だから該当でしょとなるのは勘弁してもらいたい」

 経産省の職員は家宅捜索を軽く考えていたと思っていたが、違った。彼らは「ガサ入れしたからには絶対に立件する」という捜査機関の「宿痾(しゅくあ)」を熟知していた。

 経産省が豹変した背景には、警視庁公安部長の意向があることが明らかになっている。

 同省貿易管理課は18年2月8日の打ち合わせで、「公安部長が盛り上がっているというのは耳に入ってきている。どういう文言でやればいいのか、管理部長に報告を上げておく。(中略)すでに課長レベルでは決められないので、部長と相談する」としている。

 もはや実験や科学的事実ではなく、法令解釈の文言上のごまかしで立件しようという方向にもっていったのだ。

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