藤井聡太八冠が伊藤匠七段に敗れる 「やってみたらどうかな」と挑んだ新戦法とは
藤井の「十八番」奪った桂馬使い
一局を通して面白かったのは、巧みな桂馬使いで知られる藤井の十八番(おはこ)を奪うかのように伊藤の桂馬が暴れたことだ。
伊藤は右からは49手目に自陣「3七」から「4五」へと桂馬を跳ねた。そして敵陣「3三」に成り込み、藤井玉を効果的に脅かした。左からは39手目に指した何気ない手にも見えた「7七桂」が最後に生きる。藤井に投了させた王手「8五」への飛車の打ち込みもこの桂馬の「ひも」がついて玉で取れない。藤井玉が「9四」に逃げれば持ち駒の桂馬を「8六」に打って追い込んで詰ませる。「7三」に逃げても最終的に「6五」で詰む。最後の最後まで伊藤の複数の桂馬が大きく貢献していた。
新戦法について藤井は「作戦でした。やったことがなかったので、やってみたらどうかなと」と話した。
深浦九段は「やはり若い藤井さんはどんどん新しいことにチャレンジしている。立派ですね」と評価したが、加藤一二三九段(84)は手厳しい。
「3三金型をどうして選んだのでしょう。趣向を凝らしたつもりでしょうが、構想がもろくも瓦解(がかい)しました。もう、この指し方は今後『不採用』でしょう」(日刊スポーツ4月20日付「ひふみんEYE」)と首を傾げた。
2強時代がやってくる
一方で加藤九段は勝った伊藤について「大きな勝利です。私より立派ですよ。私は中原先生(中原誠十六世名人)に8年間で21連敗でしたから。それでも心境的には、相手がうまく戦っているだけで、歯が立たないとは思いませんでした」(同)と称えた。
この春、藤井がわずかに届かなかった記録が、その中原の「年度最高勝率8割5分5厘」と大山の「タイトル戦17連勝」という昭和の巨頭2人のものだった。
この先しばらくは、現在名人戦に挑んでいる豊島将之九段(33)、永瀬拓矢九段(31)、渡辺明九段(40)、菅井竜也八段(32)らが対藤井戦で奮戦することだろう。4月21日放送のNHKの「将棋フォーカス」に出演した田中寅彦九段(66)による「来年の今のタイトル保持者予想」でも伊藤の名はなかったが、筆者は近い将来、藤井と伊藤の2強時代になると感じる。
藤井の牙城を崩すチャンスがどの棋士よりも早く巡った伊藤だが、竜王戦と棋王戦では1勝もできずに敗退した。それでも3つ目のタイトル戦に挑んだ。物静かな伊藤にも秘めたる強い思いがあるだろう。
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