親戚から20歳で社長に売り飛ばされた女性と運命の出会い…43歳夫が明かす”10年不倫”がバレた末路

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彼女が打った一芝居

 彼女がふっと腕時計を見た。帰らなければいけないのだろうか。もう一度、会場に戻らなくてはいけないのと彼女は言った。じゃあ、僕もと彼もつぶやく。

「会場に戻ってびっくりしましたよ。彼女はそのパーティの主催社社長の妻だったんです。最後に紹介されていたので、僕はひっくり返りそうになりました。すごい年の差だし、あんないかにもモラハラしそうな男の妻だったなんて……。彼女、社長と腕を組むようにして退場したんです。思わず後を追おうと思っちゃいました。そうしたら彼女、僕に気づいて目で近寄るように合図をしたんです。近づいたら彼女がさりげなく自分の携帯を僕に渡しました」

 まるで映画である。その後、彼女の携帯に連絡があった。

「彼女からでした。携帯をなくしたから戻らなくちゃと騒いでいる声が聞こえた。彼女が一芝居打ったんです。おそらく夫の声で、『そんなものは誰かに行かせればいいだろ』『いやよ、誰にも携帯の中身を見られたくないもの』というやりとりが聞こえた。その後、小声で『さっきのホテルのバーにもう一回行ってて』と聞こえて電話が切れました」

 あわてて先ほどのホテルのバーに駆けつけると、彼女はすでに来て、のんびりカクテルを飲んでいる。彼を見るとにっこり笑った。

「まさかあなたが、あの社長の奥様だなんてと言うと、『伶花って呼んで』と彼女はわざとなのか、はすっぱな言い方をする。年の差はいくつなのかとか、結婚して何年たつのかとか、いろいろ聞きたかったけど、何を言っても陳腐だなと思って黙っていたんです。すると彼女が『黙っていてくれてありがと』って。そして自ら、『あの人の後妻に入って5年よ。私は20歳で親戚に売られたの』とまた衝撃的なことを言ったんです」

 伶花さんは男女の双子だったのだが、両親はふたりが生まれてすぐ離婚した。母は病気がちだったため、男の子を手元に残し、伶花さんを広く客商売をしている親戚に預けた。高校を卒業すると、その親戚のつてで高級クラブに勤め始めた。そして客としてきていた男性に見初められ、親戚からは「結婚したほうがいいよ。そうすればおかあさんも弟さんもめんどうみてもらえるよ」と言われたそうだ。母は長年患っていたし、弟はその年、大学に入ったばかり。社長から直接、プロポーズされた伶花さんは母と弟のためのマンションをねだった。社長はマンションだけでなく、ふたりの生活を一生めんどうみると約束してくれた。

「悪い人じゃないの。私にも贅沢させてくれる。だけど結局、私は金で買われた女なんだなと思うの、と伶花さんはさらりと言うんです。手入れの行き届いた髪や肌は艶めいて美しかったけど、瞳の奥には悲しみを湛えている。そんな感じでした」

ふたりで逃げて、どこかでひっそりと暮らそう

 もう一度、ゆっくりあなたに会いたい。伶花さんはそう言い、ふたりは連絡先を交換した。俊太郎さんは翌日、朝から仕事をして出張の目的を果たし、午後から伶花さんとともに過ごした。

「彼女はホテルの部屋を指定してきました。夫はここを知らないから大丈夫。ひとりで過ごしたいときにときどき使うのと。部屋で会って話しているうちに妙な雰囲気になってしまって……。彼女、あまりに乱れるのでビビりましたよ。『僕は恋愛経験があまりないから、下手でごめん』と思わず謝ったら、『あなたはそういう人なのよね』と抱きしめられました。彼女、結婚してから一度も夫とセックスをしていないそうです。『あの人、できないの』と彼女は言ってましたね。かえってそれでよかったんだけど、とも」

 一生、私はかごの鳥なのよと彼女は古風な言い回しをした。暇だから英語の家庭教師に来てもらっていたらおもしろくなって勉強、英語はかなりしゃべれるようになったとか、これからスペイン語を習いたいとか、日々の生活も話してくれた。

「いっそ、今の生活を捨てて、僕と一緒にどこかへ行かないかと誘ってみました。自分だって結婚しているくせにと彼女は耳を貸してくれなかった。うちは子どもがいないし共働きだし、離婚はむずかしくない。そう言ったけど、彼女にそんな勇気は出るはずがない。おかあさんと弟が人質にとられているようなものですしね」

 ところが彼女は「それもいいかも」と言いだした。ふたりで逃げて、どこかでひっそりと暮らそうと言いながらも、「それはあなたから美を奪うことになるのかもしれない」と彼はつぶやいた。すると伶花さんは「いいの。違う人生を送りたい」と激しくむしゃぶりついてきた。

 自宅のある地域に戻る列車の中で、彼は彼女との急接近を「運命」だと受け取った。人生を変えるなら今しかないのかもしれない。妻に離婚を切り出してみよう。

「会社に顔を出してから自宅に戻ると、奈緒が僕の好物をテーブルに並べていました。胸が痛んで、言いそびれていると、『ねえ、報告があるの』と妻がニコニコしている。どうしたのと聞くと、『とうとうできたのよ、あなたと私の子』って。皮肉な話ですよね」

 うれしくないのと言われて、慌ててびっくりしすぎて声が出なかったと答えた。新たな人生の火が吹き消されたような気がした。

「伶花にはすべて正直に話しました。ただ、僕は子どもを捨ててもかまわないとも言った。伶花はさすがにそんなことはさせられない、だけどあなたとは別れたくないと。僕も同じ気持ちでした」

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