3歳で父と死に別れ、母は「妻子持ち」と駆け落ち…頑張れば報われると思うしかない家庭環境で育った、43歳男性の価値観が崩壊した瞬間とは
数カ月後に発見されるも…
だが数ヶ月後、ふたりは相手の男の妻によって発見された。男は妻のもとへ引き取られていったそうだ。母は命がけで恋した男に振られて自宅に戻ってきた。近所でも噂が立っていたし、祖母は嘆いて「死にたい」と言い出すし、18歳の彼はどうしたらいいかわからなかったようだ。
「大変でした。祖母と母が立て続けに自殺未遂を図って。母は精神的にかなり参っていたので、病院に入院。祖母はすぐに戻ってきて、『これからは私がしっかりしなくちゃね』って。変わり身早いなあと思ったけど、当時、70代だった祖母がしっかりしてくれたことで、僕も、返済不要の奨学金をもらい、アルバイト代を家に入れながらなんとか大学生活を送ることができました」
大学2年になるときに母が退院してきたが、やはり母との間に会話はなかった。彼も、母とコミュニケーションをとる気をなくしていた。元気でいてくれればそれでいい。そう思っていた。
途絶えた「がんばれば報われてきた人生」
成績優秀であることだけを心がけたが、生きる目標は見つからなかった。いや、生きる目標を見つけるには、あまりにも「生活」に追われすぎたのだろう。
「内定した就職先は、誰もが知っている有名企業でした。でももう精神的に余裕がなかったんでしょうね。入社式を終えて帰宅したら、なんだか急に疲労感を覚えて玄関で倒れてしまったんです。救急車で搬送されましたが、その日は点滴を打って帰宅。翌日から会社には行きました。気力もないのに、行かなければならないという責任感だけで行っているから、なんだかどんどん自分が追いつめられていく。でも近くで自殺未遂を見てますから、僕はそんなことはしないと決めていた。死ぬことすらできない絶望感がありましたね」
半年がんばったが、とうとう新入社員戦線から離脱した。がんばれば報われてきた人生が、そこで途絶えた。彼の価値観がガラガラと壊れていった瞬間だ。
「他の価値観を持っていませんでしたから、そのまま引きこもるしかなかった。母はそんな僕を見てパートに出るようになりました。家族って不思議ですよね。誰かが傷むと誰かががんばりだす」
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