4人に1人が自認する「弱者男性」の生きづらさ 事件の被害者でも「50代男性」が“かわいそう”と思われない決定的な理由

国内 社会

  • ブックマーク

女性・子どもという「理想的弱者」の存在

 男性はなぜ「弱者」と認めてもらえないのだろうか。それは、男性以外で既に「弱者」と呼べる対象が存在することも一因だろう。

 皆さんは「理想的な被害者」という言葉があるのをご存じだろうか。1980年代、ノルウェーの社会学者であるNils Christieが提唱した言葉である。人は犯罪の被害に遭った方を平等に扱うことができず、特定の被害者のみを「まっとうな被害者」に感じるという考え方だ。

「理想的な被害者」像のリストは次の通りである。
(1)被害者が脆弱であること
(2)被害者が尊敬に値する行いをしていること
(3)被害者が非難されるような場所にいなかったこと
(4)加害者が大柄で邪悪であること
(5)加害者とは知り合いでないこと
(6)自らの苦境を広く知らせるだけの影響力を有すること
(出典)Nils Christie (1986) “The ideal victim”, in E. Fattah (ed.) From Crime Policy toVictim Policy, Macmillan, pp.19-21

 論文では、事例として〈A〉と〈B〉では、〈A〉のほうが理想的な被害者として扱われると述べている。

〈A〉
•偶然被害に遭った
•知らない人が加害者だった
•か弱い
•女性

〈B〉
•酒場のように犯罪リスクのある場所で
•知り合いが加害者だった
•健康な
•男性

 たとえば、道端で札束を見せびらかしている人間が強盗に遭ったとしても、コツコツとタンス預金をしていた人間が強盗に遭ったとしても、同じ強盗罪であることに変わりはない。だが、前者の場合には「そうなって当然」といった、被害者をバッシングする動きやSNS投稿が生まれるであろう。
 
 札束は相手に見せびらかすか見えないように隠すかを選べるが、自らの意志で選ぶことができないのが性別である。女性は女性であるだけで、さまざまな要因から弱者性を帯びる。

 たとえば、力で男性に勝てる女性はごく一部だ。昨今では変わりつつあるものの、平均年収は男性よりも低いケースが見受けられる。そして妊娠や出産を経験することで、キャリアにおけるハンディを負いやすい一面もある。総じて肉体的、経済的においてある種、わかりやすい弱者性を持っているのが女性なのだ。

 対して、男性の弱者性はわかりづらい。家庭の事情、貧困、健康状態など、ありとあらゆる理由で男性も弱者側に置かれ得るにもかかわらず、基本的には「ぱっと見」で男性であれば、それだけで弱いとは思われづらい。もし弱そうに見えたとしても、「嫌悪感」を持たれはするものの「守ろう」とはされにくい。結果として男性は弱者と認めてもらいにくいのである。

次ページ:「かわいそうランキング」の最下位

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。