婚姻数は急減中…20代・30代の男女に聞いて分かった少子化の本当の原因

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出産で女性のキャリアが阻まれない社会

 まとめると、次のようになるだろう。日本の経済的な低迷に起因する将来への不安が原因で、家族をもつことに躊躇する人が増えている。そんな状況では、子供のころから将来への不安ら「無理をしなくていい」と教え込まれているいまの若い世代は、なにかと苦労もともなう結婚や出産を避けようする傾向が生じやすい。

 また、男女平等が、あたかも男女が同質であるかのように叫ばれてきた。小中学校における男女混合名簿などはその象徴だろう。しかし、男女は生物としての役割が異なり、そのために身体の仕組みも違う。それを目の当たりにするのが出産だが、男女が「同質」であるべきだとする社会においては、女性は女性にしかできない出産について、自分が不利になることだと感じやすい。そのことについて社会がケアしきれていない。

 では、そうした意識を抱いている若い世代に向けて、どのような政策が有効か。少なくとも、岸田文雄総理が「異次元」という冠をつけて進めようとする少子化対策が、有効であるとは思えない。

 児童手当に関して、所得制限を撤廃して高校生まで支給する。3人以上の子供を扶養する世代には、所得制限なしで子供の大学授業料と入学金を支援して無償化につなげる――。その各論について重箱の隅を突いても仕方ない。そもそも、こうした給付をするために、国民の負担が増えるのでは元も子もない。

 いくら手当てが支給されようと、そのために国民の負担が増え、重税感が生じるようでは、家族を持とうという意識は醸成されない。たとえば、極端な円安を是正して、円安が原因である現在の物価高を抑制しながら、国民の消費意識を喚起して、循環し成長する経済を構築する。小手先の給付ではなく、「お金をどんどん使ってもいいんだ」と思える経済を築くことでしか、少子化の勢いを削ぐことはできない。

 また、岸田内閣は「育児休業を取りやすい職場づくり」を標榜するが、たんに育児休業がとれるだけでは、女性は出産する気にならないだろう。たとえば、産休や育休を取得したのちに、希望すれば休業前と同じ職場やポジションに戻れるなど、出産や育児が女性のキャリアを阻まないようにする必要がある。また、子育てをしながら無理なく働けるように、保育所の拡充などは必須である。

 現在、女性の社会進出が促されながら、出産すれば女性のキャリアは、断たれはしないまでも傷つく危険性が高い。少なくとも、若い女性の多くはそう感じている。出産してもキャリアにはなんら影響がおよばない、と女性が確信できるようになれば、それは少子化の歯止めにつながるのではないだろうか。

 近未来に対して、経済的にも希望をもつことができ、併せて、出産しても女性のキャリアに影響が出ない社会の実現。少子化を止めることは困難だとしても、少しでもその勢いを抑制するためには、そこに目を向けるしかないのでないだろうか。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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