マスターズ閉幕 初日暫定1位につけた“奇想天外な”デシャンボーに注目

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看板を引き抜いて…

 2日目、デシャンボーはアーメンコーナーと呼ばれる難関の13番(パー5)でティショットを右の林へ打ち込んでしまう。普通なら次打は13番のフェアウエイへ出す道を選ぶが、彼は逆側の14番のフェアウエイへ向かって第2打を打ち、そこから13番のグリーンを狙うという驚きのルートを思いついた。

 そしてその際、行く手を阻んでいたオーガスタ・ナショナルの案内看板を素手で引き抜くという驚きの行動に出た。ちなみに、その看板の高さはデシャンボーの身の丈ほどあり、重さは30キログラム以上という巨大なものだったが、デシャンボーいわく「他に選択肢はなかった」。

 その奇抜なルートで見事にバーディーを奪い、大観衆を沸かせたところは「これぞデシャンボー」だった。

「いいことをたくさん学んだ」

 2019年大会でデシャンボーが首位に立ったのは初日のみだった。だが、今回は2日目まで首位タイを死守。しかし、週末はリーダーボードの最上段に留まることはできず、3日目の終了後は単独5位へ後退。最終日は4日間で最もパットに苦しみ、終わってみれば優勝したシェフラーから9打差の6位タイに甘んじた。

 そんなデシャンボーに視線をやるメディアは、ほとんどなくなっていった。そして、シェフラーの表彰式や優勝会見が進行されていく中で、初日にデシャンボーが好発進したことは「なかったこと」のように忘れられていった。

 だが、我が道を信じ、失敗も批判も世間の目も気にすることなく突き進んでいったデシャンボーの姿を目にして、「何か」を感じた子どもたちや人々は、世界のどこかにきっといたのではないだろうか。

「今週はパー5で自分の強みを活かせなかった。すべてを完璧に行なうことはできないけど、今週、僕はいいことをたくさん学んだ。そんな自分自身を僕は誇りに思う」

 勝利を逃し、後退し、優勝争いの輪の中からフェードアウトしていったデシャンボーが、そう言って胸を張ってくれたことを私は秘かにうれしく思った。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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