〈さらば川勝知事〉最後に固執した「ルート変更案」の悪質性 非現実的で倫理的にも問題が
ルート変更の“執念”
21年6月、4選を果たした川勝氏は記者会見で「自民党と協力してルート変更や工事中止を申し入れる」と発言。自民党の推薦を得た対立候補を破った直後の発言だったため、周囲は相当に困惑した。とはいえ、彼の本音が「ルート変更」であるのは明らかだった。
「関係者の多くが驚いたのが2022年6月、静岡県が『リニア中央新幹線建設促進期成同盟会』に加盟申請を行った時です。当時はリニアと関係の深い9都府県の知事などで構成され、その時も今も愛知県の大村秀章知事が会長を務めています。川勝さんがルート変更の発言を繰り返していたことは知られていたので、申請を受けた愛知県は何と『貴県の認識を確認したい』と静岡県に文書を送り、『現行ルートの整備を前提に、スピード感を持って静岡県内の解決課題に向けた取り組み』を進めるのかと問いただしたのです」(同・記者)
まさに“踏み絵”を迫った、異例の文書であることは言うまでもない。これに川勝氏は「現行ルートの整備を前提に取り組みを進める」と同意した。これでルート変更は主張しないと約束したはずだったのだが、2023年6月、産経新聞の報道で川勝氏の“二枚舌”が発覚する(註2)。
22年の年末、川勝氏は国交省幹部と非公式に会談。現行ルートでは長野県飯田市にリニアの停車駅を設置することになっているが、これを北に100キロ離れた松本市に移し、静岡県内を通らないルートにしてほしいと要請したことが明らかになったのだ。
非現実的なルート変更
「これでは愛知県の問い合わせに嘘の返事をしたことになります。こうした報道について記者から質問されると、川勝氏は、『現行ルートを前提にして、専門部会、有識者会議で議論していただいている』と話をしてはぐらかしていました。」(同・記者)
だが、その後も川勝氏はルート変更について“自説”を展開した。特に4月5日の中日新聞は「『ルート変更余地出た』辞職表明直前 牧之原市長に」の記事を掲載。牧之原市の杉本基久雄市長に「ルート変更の余地が出てきた」という主旨の発言を行ったと報じた。
川勝氏が主張したルート変更案は、全く非現実的なものだと誰でも分かる。専門家の目から見ると、現実性だけでなく倫理的な問題もあるという。
そもそもルートを正式に決めたのはJR東海ではない。2011年5月、国の交通政策審議会の「中央新幹線小委員会」が議論を重ね、現行ルートが適当だと答申した。
「つまりルートを変更するのは、時計の針を少なくとも2011年5月まで戻すことを意味します。新ルートの工事は可能なのか、環境アセスメントも何も手つかずです。本気でルート変更に挑めば、開業が大幅に遅れるのは言うまでもありません。おまけに大井川の流量問題など懸念が県民から訴えられるたび、関係者は科学的な知見から地道な議論を繰り返し、一つ一つ丁寧に解決してきました。安全で安心なトンネル工事が静岡県内で実現する可能性が高まっているのに、それを白紙に戻すという考えも理解できません」(同・記者)
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