〈さらば川勝知事〉最後に固執した「ルート変更案」の悪質性 非現実的で倫理的にも問題が

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実は実績のない知事

 会見の迷走さえなければ、川勝氏は知的でスマートという印象を持っていた人は、かなりの数になるだろう。格好いいと評価する人がいても不思議ではない。声も張りがあって、一種の美声と言える。関係者が知事選を見ていると、女性票を確実に掴んでいることは明らかだったという。

「知事の懇親会の様子を聞いたことがありますが、川勝さんの周りは女性が多く集まっていたようでした。地元経営者の妻にもファンが多かった。リニアの問題を離れると、サービス精神が旺盛で、話も上手い。元大学教授というイメージにぴったりの、知的で聞き手を魅了する会話で楽しませました。さらに政治家としての“嗅覚”もあり、リニアに反対すると自分の票田が大きくなると直感的に分かっていたのだと思います」(同・関係者)

 川勝氏の「工事を止める」という姿勢を「開発ではなく環境を重視している」と好意的に受け止める県民は決して少数派ではなかった。「JR東海といえば日本でもトップクラスの大企業なのに、憶せず噛みつく川勝知事は大したものだ」と評価する声もあったという。

 別の関係者は「冷静になって川勝知事のリニア発言を振り返ってみると、イメージほど水資源や環境を重視していたわけではなかったことに気づきます」と言う。

突然の「ルート変更」発言

「ハコモノの建設でも工場誘致でも、知事として実績を残すことは大変でしょう。ところがリニア反対は口で言うだけですから非常に楽ですし、何よりコストはゼロ。おまけに全国ニュースになるので発信力は絶大です。実は凡庸で確たる実績もない知事だったのに、リニアに反対したことが最大の成果だと受けとめられてしまった。諺の『悪名は無名に勝る』が現実のものとなり、有権者の支持を得たのではないでしょうか」

 とはいえ、常に反対、反対、だと、さすがに県民からも徐々に疑問の声が出る。特に最近は、大井川の流域自治体の首長がトンネル工事に理解を示すなど、川勝氏の“孤立化”も目立っていた。

「改めて知事としての発言を精査してみると、川勝さんの本心はルート変更であったことが垣間見えます。例えば2020年7月、川勝さんは国土交通省の藤田耕三事務次官と静岡県庁で会談しました。その際、『ルート変更もやむを得ないとの議論がある』と発言し、受けとめを問いました。藤田事務次官は『ルート変更の議論は全く出ていない』と一蹴し、確かにそんな議論が起きたことはなかったのですが、その後も川勝さんはルート変更にこだわりを見せたのです」(前出の記者)

 月刊誌・中央公論の2020年11月号に、川勝氏は『静岡県知事、国策リニア計画にもの申す』を寄稿。その中では南アルプスを避ける迂回ルートへの変更を主張した。

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