あれから39年…阪神「伝説のバックスクリーン3連発」に甲子園のウグイス嬢も冷静さを失っていた!

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「カネボウから10万円相当の賞品が贈られます」

 次打者・掛布も「バースのどさくさに紛れて打つのではなく、冷静に僕と槙原投手との“勝負の間”をつくりたかった」と2球続けて見送ったあと、カウント1‐1から内角を狙った槙原の144キロ直球が高めに入ってくるところを見逃さず、バックスクリーン左へ連続アーチ。

「詰まっていたから入らないと思ったけど、アレヨアレヨと伸びていったね」(掛布)

 そして、この日、槙原から2安打とタイミングが合っている5番・岡田も本塁打を狙っていた。「前の2人が直球だから、もう(勝負球は)変化球しかない」と初球の直球を見送ったあと、1-0から槙原の2球目、高めスライダーを完璧にとらえた。

 打球がバックスクリーン中段に吸い込まれていった直後、スタンドは「信じられないものを見た」とばかりに一瞬シーンと静まったが、一拍置いて「ワーッ!」とわき返り、たちまちお祭り騒ぎに。

 異様な興奮状態に甲子園のウグイス嬢も冷静さを失ったのか、「この回、バックスクリーンにホームランを打ちましたバース、掛布、岡田選手には、スポンサーのカネボウから10万円相当の賞品が贈られます」とアナウンスしてしまった。正確に言うと、掛布の本塁打はバックスクリーン弾ではなかったのだが、結果的に3連発の快挙に便乗する形で賞品を手にしている。

21年ぶりVを象徴する「ビッグゲーム」

 伝説のバックスクリーン3連発が飛び出し、阪神が巨人に快勝――。リアルタイムで見ていないファンは、そんなイメージを抱いていてもおかしくないが、実は、この試合は最後までもつれにもつれ、吉田義男監督をして「緊迫したゲームでいい勉強になります。辛抱する勉強をね」と言わしめている。

 3点を追う巨人は9回、クロマティが2番手・福間納からこの日2本目の右越えソロを放ったあと、原も中越えソロで続き、たちまち1点差。次打者・中畑も本塁打なら、両チームともにクリーンアップ3連発が実現し、試合が振出しに戻るところだった。

 ここで吉田監督は、2年目の若手・中西清起をリリーフで起用した。初めて抑えを任された中西は、いきなり中畑に本塁打性の当たりを打たれたが、ファウルで命拾い。直後、中畑はレフトに痛烈なライナーを放ち、再びヒヤリとさせられたが、弾道が低かったのが幸いし、打球は佐野のグラブに収まった。

 これで落ち着いた中西は、吉村禎章、駒田徳広を連続三振に切って取り、6対5でゲームセット。見事プロ初セーブを挙げた。

 優勝したチームは、その過程の中で、「あの試合があったから優勝できた」と言えるようなビッグゲームがある。同年の阪神はバース、掛布、岡田のクリーンアップを中心とする強力打線でリードを奪い、最後は中西が締める勝ちパターンで、21年ぶりVを達成したが、その象徴とも言うべきビッグゲームが、4月17日の“伝説の巨人戦”だった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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