入院8泊9日で「120万円」も 高額報酬で話題の「海外治験」は本当に安全なのか? 担当者が明かす日本人向け治験ならではの特殊事情
確かめたいのは薬の効き目ではない
しかし、いくら報酬が良くても治験で体を壊しては本末転倒。安全性についてはどう説明するのか。
「治験中に副作用が出る人は、ごく少数ではありますが、います。ただ、我々の手掛ける日本人向け治験で重篤な健康被害を起こしたことは一度もありません。そもそも、製薬会社が実施する“日本人向けの治験”は、通常の治験と事情が少し異なるのです」(治験グローバル・井林氏)
――いったい何が違うのでしょうか。
「日本人向け治験でテストするのは、海外では治験を終え、既に流通している薬がほとんどです。新たに日本で販売するために追加で実施するもので、新薬の開発ではありませんから、リスクも相対的に低いと言えます」
――とはいえ、健康なのに治療薬を投与されて、体が不調をきたすことはないのでしょうか。そこが怖いと感じる人も多そうですが。
「これも誤解されることが多いのですが、“日本人向け治験”で主に確かめたいのは薬の効き目ではありません。それは既に通常の治験でクリアになっていますからね。テストしたいのは“薬物動態性”と言って、薬が体内に入ってから排出されるまでの時間なんです。人種や体格の差で変化が生じないかを調べるんです」
井林氏によると、治験には3つのフェーズがあり、フェーズ1は健康な成人が対象に。その後、フェーズ2は少人数の患者、フェーズ3では多人数の患者が対象となる。一方、インターネットなどで広く募集されている日本人向けの治験は、ほぼ全てがフェーズ1の治験なのだそう。
厚労省が治験プロセスを簡略化
ただ、将来的には日本人向けの治験は減っていく見込みだという。
というのも昨年、厚生労働省がフェーズ1における、日本人への追加の治験を「原則不要」とすることを決めたからだ。
背景には、日本人への追加治験のコストを嫌う製薬会社が、日本での新薬販売を敬遠する「ドラッグ・ロス」問題がある。一説には、欧米で承認された新薬の7割が日本では未販売なのだそうだ。
「ただ、“日本人のデータがある方が望ましい”という但し書きは残っていますから、少しずつ減ることはあっても、日本人向け治験が完全にゼロにはならないと想定しています。また、アジア広域への販路を想定した治験の需要は、今後も続くと見ています」(治験グローバル・井林氏)
知られざる海外治験の世界。後編では、現地で実際に“治験ライフ”を実践中の男女2名にインタビューを実施。“現役チケラー”のリアルな体験談をお伝えする。(後編【「去年は“海外治験”で530万円稼いだ」“現役チケラー”が打ち明ける「治験の醍醐味」と「健康被害よりも重大なリスク」とは?】に続く)