入院8泊9日で「120万円」も 高額報酬で話題の「海外治験」は本当に安全なのか? 担当者が明かす日本人向け治験ならではの特殊事情
10日間で応募枠が満員に
取材に応じてくれたのは、イギリスで日本人向けの治験事業を展開する「治験グローバル」社の広報・井林高志氏。
――例えばどんな募集があるのでしょうか。
「現在募集しているものだと、8泊9日の入院と6回の事後検診で6,000ポンドの案件があります。日本円換算で約120万円です。治験の期間は6月初旬から8月下旬の足掛け3か月。その期間はイギリスに滞在する必要があります」
――120万円はすごいですが、3か月のイギリス滞在はハードルが高く感じます。実際に応募してきた人はいるのでしょうか。
「おかげさまで多数の問い合わせを頂きまして、昨年の同タイプの案件は応募から約10日間で満枠となりました。製薬会社との守秘義務があるので詳細はお伝えできないのですが、募集人数は平均して10~30人ぐらいが中央値です。参加者の7割が男性。年齢的に多いのは20~30代で、2023年の在ヨーロッパのボランティア登録者は累計で200名を超えています」
――10日間で満枠ですか。……こう言ってはなんですが、やはり『カイジ』や『ウシジマくん』の登場人物のような、お金に困った人が多いのでしょうか。
「言いたいことは分かります(笑)。たしかに以前は、免停中のタクシー運転手さんのように、分かりやすくお金に困った人や、海外治験だけで生計を立てる“チケラー”もいました。ただ、最近の参加者はほとんどが在英の日本人。ノマドワーカーや投資家など、収入があって時間の自由の効く方々が多いです」
アフターコロナで景色が変わった
――「治験」だから“チケラー”ですか。
「実は僕も、2010年代に5年間ほど海外を渡り歩いた“元チケラー”なんです。その頃に治験施設で一緒になった人たちの中には、ちょっと気難しい人とか、“うーん、大丈夫かなこの人”という方もいて、独特の雰囲気がありました。でも近頃の参加者さんたちは、当時とは明らかに違いますね」
――参加する人の属性に変化が起きているのですね。
「明確に変わったのは、世の中がアフターコロナに切り替わった2022年頃ですね。コロナ期間中に止まっていた治験が一気に動き出したのですが、その頃からまず、欧米の物価高に呼応して治験の報酬がグンと上がりました。そこに円安が重なって円換算の報酬額が高騰したことで、海外にいる日本人たちの目に留まったんです。リモートワークが一般的になり、働きながら治験に参加できる人が増えたことも大きい。うちが紹介する宿泊施設はPCスマホOKでwifi完備ですから、入院中もPCで内職している人が多いです」
今では募集の際も、ターゲットを絞ることのできるFacebook広告を使い、海外在住の日本人を“狙い撃ち”しているそうだ。その方がわざわざ日本から呼び寄せるより効率が良いというわけだ。
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