5000円で台本募集…無断盗用&間違いだらけの「遭難系YouTube」が乱発されるワケ

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ヒットすると真似するチャンネルが続々できる

 こんな体制で量産されていく遭難コンテンツに意味はあるのだろうか。

 多くのチャンネルでは「過去の事例を知り、事故防止に役立てていただくことを目的としています」などと記されているが、それが建前であることは明らかだ。そう書かれているチャンネル紹介文自体が、これまた判で押したようにどこも同じで、コピペで作られているようなのだから救いがない。

 実はこうした状況は山岳遭難に限らず、他ジャンルでも同様に見られるのだという。

「教養系チャンネルといいますか、学び直しができるYouTube動画が流行っています。そのなかに歴史や事件モノがあり、少し前から遭難系や航空事故を扱ったものが目立つようになりました。ひとつのテーマが当たると、同じ題材、同じようなフォーマットで動画を作る人が現れ、結果的に同じような動画を出すチャンネルが大量にできるのだと思います」(ITジャーナリスト・井上トシユキさん)

「事故防止」にはならない

 それがインターネットといってしまえばそれまでなのだが、遭難動画の場合、内容的な間違いが少なくないこともひとつの問題だろう。

 山の説明をしているときに、全く関係ない別の山の写真が映し出されることはよくあるし、道具の説明がまるで間違っているときもある。ときには、主題とは微妙にピントが外れた一般論がやけに長く続き、Chat GPTなど生成AIで作った文章を読んでいるような印象を受けるものもある。実際に台本をAI任せで書いているのかもしれない。

「遭難しないための有用な知識を得たい」。それが遭難コンテンツを求める主要な動機であることは冒頭に述べた。ならば、内容に間違いがないことは他ジャンルにも増して重要であるはずだ。

 ところが、低品質な遭難動画は、作っているのがどういう人なのかはわからず、台本も誰が書いているのかわからない。そこに盗用や間違いがあっても責任を取る人はいない。外部から指摘されると黙って削除して逃げるのみである(私が過去に経験した削除案件はすべてこうだった)。

 そんなコンテンツに意味などあるはずがない。むしろ、社会に悪影響を与えるだけだと思うのだが。

森山憲一(もりやま・けんいち)
1967年、神奈川県横浜市生まれ。神奈川県立厚木高校、早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒業。山と渓谷社、枻出版社で編集者として活躍。現在は、登山、クライミングをテーマに執筆を行う。

デイリー新潮編集部

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