5歳の時に捨てられた母親の死をきっかけに、夫は年下妻に隠れて化粧を…妻に「変態」と言われてもやめられない“心境の変化”
「母になる」女装をやめられない
ちょうど千芙美さんが息子の受験に本腰を入れ始めた時期だった。千芙美さんは、ますます息子に没頭していった。雅明さんは、エスカレートしていく千芙美さんの受験熱から息子を守ろうと必死になった。
「あのころはオンラインで塾の講義をやたらと受けさせていたので、息子と話し合って減らしました。塾に通えるようになってからも、無理しなくていいと言い続けた。妻のプライドもあるから、そこを傷つけないようにしながらも、息子にはよく塾をサボらせました」
その一方で、彼は「母になる」女装をやめられなかった。高野さんは、それからもときおりつきあってくれた。一緒に食事に行ったりバーに行ったりしたこともある。気持ちが高ぶって高野さんの前で泣いたとき、彼はやはり雅明さんを抱きしめてくれた。
「彼もまた、自分の父親に愛人がいたという事実を抱えて大きくなったんですよね。思春期にそれを知ったからおそらく傷ついていたはず。でもそのことを妹である千芙美には言えなかった。そんな経緯があるから、高野と僕は抱きしめ合うことで何か感じるものがある。僕と千芙美だと、お互いに傷が生々しすぎるのか抱き合っても落ち着けないんです。特に彼女の憎悪を感じると、僕は身動きがとれなくなるような気がして……」
息子は、千芙美さんが望んだ雅明さんの母校の受験に不合格となった。地元中学に通えると知ったとき、息子が密かにうれしそうな顔をして雅明さんを見たことが、彼の気持ちを和ませたという。
「千芙美はふぬけみたいになっていましたが、息子が中学に通い始めた今、再度、僕のほうに関心がわいてきたみたいです。先日も『まだ女装してるの?』と言いだした。千芙美は僕の心情を深く知ろうとはしない。だから、いや、もうしてないと答えたんですが、翌日、衣装ケースの中が空になっていました。捨てられたみたいです」
辞めるつもりはない
雅明さんは再度、母の写真に似た洋服を買い集めるつもりだ。部屋には補助鍵をつけた。もちろん、そういう問題ではないのはわかっているのだが、これについては千芙美さんと話し合っても解決策は生まれない。話すだけ無駄だと彼は言う。
「僕自身がやめられればいいのかもしれないけど、やめるつもりはない。むしろ、自由になった母としてあちこちに行ってみたい。まあ、近所の目とか息子の体面もあるから、それほど動き回れませんけど」
そうだ、と彼は母親の写真を取り出した。確かに目元の涼しいきれいな人だ。これが独身のころ、これが結婚式と彼は6枚ほどの写真を見せてくれた。そしてスマホの中の彼の写真も。確かに母と同じようなセミロングのカツラをつけると、母親によく似ていた。最近はつけまつげもつけるのだという。母はまつげが長かったと。
彼の中で何かが整理されていないのだろう。だからこういう行為に走ってしまう。だがもしかしたら、それがきっかけでもともと興味があった女装への思いがかきたてられたのかもしれない。いずれにしても、彼の気持ちが穏やかになればいいと願うしかなかった。
前編【結婚直後、年下妻のコンプレックスと憎悪を知ってしまった夫 彼女を怒らせたら大変なことになると知りつつ、白状してしまった“秘密”とは】からのつづき
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