結婚直後、年下妻のコンプレックスと憎悪を知ってしまった夫 彼女を怒らせたら大変なことになると知りつつ、白状してしまった“秘密”とは
妹をかばった兄
高野さんはすでに結婚していた。当時、妹は27歳目前で、雅明さんはもうじき40歳になるところだった。年齢差を気にしたが、高野さんは「オレ、シスコンだからさ、信頼できる相手じゃないと妹と結婚させたくない。おまえならいいよ」と笑った。
「その日、一杯やってから高野がどうしても家に寄れというんですよ。もう夜も遅かったしまた今度と言ったけど彼は聞かない。しかたなくついていったら、奥さんと千芙美が迎えてくれたんです。ふだん千芙美は別のところに住んでいるけど、金曜の夜だったから兄一家のところに来ていたみたい。いろいろ話を聞かされました。とにかく千芙美と高野は仲がよかったようで、最初、奥さんは『この兄妹の間に入り込めるのかと心配だった』と。ただ、千芙美は奥さんともすぐ仲良くなったと。本当にいい子でした。小さいころからいくら父親の家とはいえ、血のつながらない母親の顔色をうかがって育ったんでしょうね。高野の話だと、母親は夫の愛人の子をどうして自分が育てなければいけないんだとイライラしていたようですから。高野はずいぶん千芙美をかばったんだと言っていました」
千芙美さんはそれを聞きながら、「そうなんです。今でもこうやって恩を売るんです」と笑わせた。複雑な環境で育ったものの、そういうことをすべて克服した女性の潔さと強さを雅明さんは感じたという。
「魅力的でした。高野が言うとおり。いい子という表現は彼が兄だからであって、僕から見たら若いのに人生を達観しているような、腹の据わった女性だなという印象でしたね。ただ、ときどきふっと寂しそうな表情を見せることがあるような気がしましたが、それはおそらく生育歴を聞いたからでしょうね」
千芙美さんの「拭いがたいコンプレックス」
後日、高野さんに千芙美さんの印象を聞かれた雅明さんは、「また会いたい。語り合いたい」と言ったそうだ。雅明さんは学生時代の友人のツテで外資系の企業に入社して生活も安定した。そしてそれから1年たらずで、ふたりは結婚した。それほどまでに雅明さんの心を奪った千芙美さんとの結婚生活、さぞや順調に進んだのだろうと想像するが、実は最初からそれほどうまくはいかなかったのだという。
「結婚してすぐ、僕は彼女の拭いがたいコンプレックスを感じてしまったんです。そしてそれは僕が持っているのと同じ種類のものだった。つまりは“親に捨てられた感じ”です。彼女は母に死なれて、実の父の元に引き取られたけど育ての母とは、あまりうまくいかなかった。高野の話によれば、父親は連れ帰ってはきたけど、特に千芙美に気持ちを寄せるわけでもなかったというから、やはり寂しかったでしょうね。僕は母に捨てられ、傲慢な父はいたけど、別の家庭があったから僕はどこかに連れていってもらったことも遊んでもらったこともない。家政婦さんやばあやさんはいたけど、心を開けるものでもない。結局、そういうふたりが結婚して家庭をもっても、どういう家庭がいいかまったくわからないんですよ」
千芙美さんは、二言目には「おにいさんが」と高野さんの話をする。雅明さんは、そんなに兄貴がいいなら、どうしてオレと結婚したんだ、兄貴の家に住めばいいだろとつい言ってしまったことがある。千芙美さんが妊娠5ヶ月くらいのときだった。
「千芙美が顔を伏せたので、泣かせてしまったと思い、ごめんと言うと、彼女は顔を上げて僕を睨んでいました。その顔があまりに怖くて、こちらが顔を伏せた。憎悪が張り付いたような表情でしたね。これほどまでに体内に憎悪を抱えているのかとびっくりしました。僕だって、僕を捨てた母を恨んだことはあるけど、憎悪を持ち続けるのは大変だとわかっているから、さっさと忘れました。でも千芙美はずっと憎悪の塊を抱えて生きてきたんだとわかった」
妻を怒らせると何が起きるかわからない。雅明さんはそう感じたという。
後編【5歳の時に捨てられた母親の死をきっかけに、夫は年下妻に隠れて化粧を…妻に「変態」と言われてもやめられない“心境の変化”】へつづく
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