【名人戦】豊島九段が“70%優勢”だったのに… 藤井八冠が巧みな桂馬使いで攻めに転じた瞬間

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2つのタイトルを藤井に取られた豊島

 関西の名棋士・桐山清澄九段(76)の愛弟子である豊島は、2019年に佐藤天彦九段(36)から名人位を奪取し、棋聖と王位と合わせて三冠を達成。その後、竜王との「二大タイトル」を同時に手にしていた時期があった。

 あれよあれよという間に台頭してきた藤井に対しても、6連勝するなど当初はトップ棋士の中で最も藤井に強かったが、追い付かれ追い抜かれた。渡辺明九段(39)に敗れて名人を奪われた。その渡辺が昨年、名人戦で藤井に敗れ、藤井が最年少名人となったことは記憶に新しい。8つのタイトルのうち渡辺は4つ、豊島は2つのタイトルを藤井に取られている。

 これで豊島は公式戦で藤井に対し11勝23敗となった。タイトル戦で藤井と相対するのは5回目で、今年2月にA級のリーグ戦で7勝を挙げて挑戦権を決めた際、豊島は「自分なりに力を尽くして頑張りたい」と闘志を見せていた。

 豊島は一時期、AI将棋研究だけに専念し、対人の練習局を指さなかったことがある。当時、筆者は「タイトル戦などで急に人を相手に指すのは心配ではないですか?」と尋ねたが、「公式戦の対局は多いので大丈夫です」と答えていた。最近になって対人も指すようになったようだ。

 最近は、以前は指さなかった「振り飛車」も使うケースも出ており、序盤から「振り飛車になるか」も注目されていた。

 豊島は藤井と同じ愛知県出身だが、父親は大阪で弁護士をしており、長く関西に暮らした。知的で優しそうな眼差しのルックスから、女性ファンから「トヨピー」という可愛いらしい愛称で呼ばれ、NHKの将棋番組でも指南役として人気があった。

「マス」はいっぱいになった

 さて、今期の「第82局」というのは、新たなる名人戦の歴史に入ったという意味もあるそうだ。その理由は将棋盤。名人戦がそれまでの世襲制から実力制度になって、1937年12月に9人のリーグ戦などを制して誕生した初代名人の木村義雄十四世名人(1905~1986)から大山康晴十五世名人などを経て現在の藤井名人に至るまで、歴代の名人獲得者を盤の「マス」に埋めてゆくと昨季で81マスがいっぱいになったわけだ。

 果たして「新しい将棋盤」のマスに入る1人目が藤井なのか豊島なのか。第2局は4月23、24の両日、千葉県成田市の「成田山 新勝寺」で豊島の先手番で行われる。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお) ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件』(ワック)、『検察に、殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)、『アスベスト禍』(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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