【名人戦】豊島九段が“70%優勢”だったのに… 藤井八冠が巧みな桂馬使いで攻めに転じた瞬間

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佐藤九段が「あ、ありますね」

 ABEMAのAI評価値は「70%豊島優勢」を示していた。そして122手目に豊島が「4四」に香を打ち込んだ。この瞬間、佐藤九段が「あれっ」と叫んだ。攻め手が緩んだのを見た藤井は「5七」へ玉を逃がし、豊島の桂馬を取る。これで藤井玉を脅かしていた駒の一つが消えた。藤井は「(自玉は)すぐに寄らない」と判断し、守勢から攻めに転じる。

 さらに、藤井には秘めた大きな一手があった。「3七桂」である。自陣の桂馬が跳ね、銀が「3三」に打てると、安全に見えていた豊島玉が急に危うくなるのだ。藤井の桂馬使いの巧みさが出た。

「なかなか豊島九段の玉が詰めろ(相手の王手がなければ詰んでしまう状況)にならないですね」と手を模索していた佐藤九段が、急に「あ、ありますね」と声を出した。藤井が「3七桂馬」と跳ね、「3三銀」が打てるようになると、豊島玉が詰めろに追い込まれることを紹介。聞き役の山口恵梨子女流二段も「うわあー、すごい。『3七桂馬』があったなんて」と興奮気味だった。果たして、127手目、藤井は満を持して「3七」に桂馬を跳ね、そこから豊島陣は崩れていった。

藤井は終盤でも大局的に見る

 豊島のほうが持ち時間を多く残していたことから優勢と見られていたが、藤井の思わぬ手に長考が続き、いつの間にか豊島の消費時間が長くなっていた。

 結局、141手目に藤井が「4一」に銀を打ち込んだ王手を見た豊島は、考慮中に9時間の持ち時間が切れて1分将棋に入ったが、将棋盤に手をかざして投了した。

 佐藤九段は「終盤になるとどうしても玉の周辺にしか目がいかなくなりがちですが、藤井名人は『8八』に歩を打つなど、大局的に見ることができることが素晴らしい」と感服していた。

「8八歩」は、藤井が「8一」に飛車を打ち込んでいたため、遠くからこの歩に「ヒモ」がついて、藤井陣の片隅の「9九」にいた豊島の馬が歩で止められて効かなくなっていたことを示す。結局、一局を通じて佐藤九段の見る通りになっていた印象だ。さすがは50歳を過ぎてもまだまだトップ級で戦う元名人である。

 藤井は局後に「想定していない展開で、形として思わしくなく、苦しくしてしまった」と話したが、心底、負けを覚悟したはずだ。

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