かつては“やらせ”が問題に…「新プロジェクトX」の初回放送で気になった演出

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「再現」を嫌いすぎる

 2007年にNHKで放送された「事件の涙」というドキュメンタリー番組を思い出す。闇サイトで集まった男たちに娘を惨殺された母親の取材で、娘の思い出がつまった自宅での撮影を拒否され、NHKは自宅の替わりにウィークリーマンションのような場所に「再現セット」を作って撮影した。「再現セット」である事実を隠して放送した。

 同じ母親を取材していた民放のドキュメンタリー制作者の指摘でそれが明らかになり、再放送では「自宅ではない」とNHKはテロップでお断りを入れることになった。問題提起した民放制作者は「NHKがこれまでの番組でも繰り返してきた常套手段なのではないか」と著書で疑問を呈している。

 ドキュメンタリーの本家本元という意識が強すぎるせいか、NHKにはときおり「過剰な演出」と思える描写が目につくことがある。久しぶりの本格的なドキュメンタリー番組「新プロジェクトX」はそんなところでつまずかないでほしい。

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記事「『ふてほど』の後ではキツい…NHK『新プロジェクトX』の昭和的すぎる“美談”」では、番組内の時代錯誤な要素を水島氏が指摘している。

水島宏明(みずしま・ひろあき)
ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授。1957年生まれ。東京大学卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」元編集長。近著に「内側から見たテレビーやらせ・捏造・情報操作の構造ー」(朝日新書)、「想像力欠如社会」(弘文堂)

デイリー新潮編集部

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