「ふてほど」の後ではキツい…NHK「新プロジェクトX」の昭和的すぎる“美談”

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「ふてほど」サカエなら怒り出しそうな…

 しかも、登場するのは男性ばかりだった。女性は出てくるとしても「妻」という役割だ。スカイツリーの工事にかかわった関係者に女性はいなかったのか。それを除外するのは「昭和的」な、仕事の描き方ではないのか。ドラマ「ふてほど」で吉田羊が演じた社会学者の向坂サカエなら「信じられない!時代は令和なのにジェンダー平等の人権感覚がなっていない!!」と怒り出すのではないだろうか。

 加えていえば、スタジオでは有馬嘉男キャスターの隣に森花子キャスターが座っている。まさに「花を添える」感が濃厚で、女性が番組に主体的に関わっているという印象が乏しい。女性の社会進出ひとつとってもこんな現状だからこそ、日本は世界に遅れをとっているのではないのか。そういったテーマにできないのか? 思わず突っ込みたくなるほど初回の放送では「足りない点」ばかり目についた。

 もちろん「ドラマ」と「ドキュメンタリー」は違う。いってしまえば、前者は「俳優が演じる“作り話”」で後者は「当の本人が行う様子を撮影した“実話”」だ。“実話”が現代の価値観にそぐわないことも、もちろんあるだろう。とはいえ取り上げるテーマの選択や、着目する関係者などの工夫で、本稿で論じた問題点には対処できるのではないか。令和版に求められるものとして「新プロジェクトX」の制作者も“挑戦”してほしい。

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記事「かつては“やらせ”が問題に…『新プロジェクトX』の初回放送で気になった演出」では、初回放送での危うい場面を水島氏が指摘している。

水島宏明(みずしま・ひろあき)
ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授。1957年生まれ。東京大学卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」元編集長。近著に「内側から見たテレビーやらせ・捏造・情報操作の構造ー」(朝日新書)、「想像力欠如社会」(弘文堂)

デイリー新潮編集部

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