秘密兵器「クリケット・バット」が、「大谷翔平」の打撃を完全復活させた“本当の理由”

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フライボール革命

 今季の大谷もヒットこそ出ているが、詰まり気味のポテンヒットや、強い打球だが空中に上がらずゴロや低いライナーになってしまうことが目立つ。ヒットの内容は決して良いと言えない。だからこそ、大谷はクリケット・バットを試したのではないだろうか。

 ドジャースの打撃練習場にクリケット・バットが置いてあった理由は、おそらく最近のMLBの打撃傾向と関係があるだろう。

 数年前から〈フライボール革命〉が叫ばれ、「ゴロは絶対にホームランにならない」「フライを打てばフェンスを越える可能性がある」という考えが優位になった。従来の日本野球の常識とは対極的な〈フライ信仰〉がいまはMLBを支配している。

 それに関連して、〈バレル率〉とか〈バレル・ゾーン〉という言葉も盛んに使われる。バレルとは元々、バットの太い部分のことを指す言葉。バレル率とは、打球の初速と打球角度の理想の組み合わせを表す指標と言われる。本塁打につながるバレル・ゾーンの角度は、打球の初速が速いほど広がる。つまり、より速い打球速度、飛びやすい角度で打ち上げればホームランの確率が上がるという発想だ。大谷も、MLBに渡ってからは頻繁に角度について言及しているから、常に意識している打撃の核心と見ていただろう。

アッパースイングの方が飛ぶのか

 打球面が平板なクリケット・バットは、バットの角度がそのまま打球方向と一致する。その意味で、スイングと打球角度の確認がしやすい効果があると分析する関係者も多い。

 だが、この説には少し疑問がある。それは、日本で長く信じられている「飛ばす極意」と「フライボール革命の理論」はある意味、正反対だからだ。王貞治が日本刀で稽古した話は有名だ。縦振りでボールをスパッと斬るイメージ。「上からボールを捉え(ボールの下側にバットが入り込み)、ボールに上昇回転を与えることで打球が飛ぶ」という発想だ。ところが、MLBのフライボール革命は違う。「一定のスイングスピードがあれば、アッパースイングの方が打球は飛ぶ」。まさにクリケット・バットですくい上げる打法を推奨し、「力さえあればそのままいい角度で飛んでいく」と言わんばかりの理論だ。本当にそうだろうか? これについては、まだ結論を出すには早いだろう。いずれもっと実証データが重なり、大谷自身の行く末も見守る中で見えてくるのを楽しみにしたい。

 それよりも、「クリケット・バットで大谷が変化した事実」、はっきりしたクリケット・バット効果を指摘したい。

自然に身体が反応する

 大谷がクリケット・バットで練習した時、おそらく140㎞いや120㎞を超えるような速いボールは打っていないだろう。山なりのボールをミートして、打撃の感覚をつかむような練習だったと想像できる。遅いボールなら、身体を左右に動かしてタイミングを取る必要はない。しかも、バットが重いから、どっしり構え、打つ前に予めボールを捉え、打つべきポイントに来た瞬間に反応してスイングする。その感覚を大谷は思い出したのではないだろうか。

 実際、クリケット・バットで練習した後にレフト方向に打った第3号の打席では、身体の左右の動きが消えている。真っすぐに立ち、軸をぶらさず、やや遅れ気味だが、自然にバットを出してボールを弾き返している。その日のヒットも同様だ。大谷が意識して改善したのか、身体が勝手に思い出したのか。いずれにしても、間違いなく理想に近づいたという意味で、「クリケット・バットの効果はあった」と歓迎していいだろう。ボールを打ちに行くのでなく、「ボールを捉えてから自然に体が反応する」、自然体の大谷が復活すれば、この時こそホームラン量産が期待できるだろう。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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