【袴田事件再審】検察側証人・九大名誉教授が“仰天発言” 巖さんの姉は「苦し紛れに聞こえました」

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「警察の助力なしに鑑定はできない」

「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」の山崎俊樹事務局長は「以前、弘前市で警察の依頼による遺体鑑定を多く手掛けたある法医学者と懇談した際、彼は『鑑定は警察の助力や情報がなくてはできないんですよ。大体の鑑定は警察の鑑識課職員なんかと一緒にやっている。だから、ある意味、怖いんですよ』と話していました」と打ち明ける。

 警察が依頼した法医学者の誤った鑑定が冤罪を生んだ例に、滋賀県の湖東記念病院事件がある。亡くなった男性患者は「呼吸器が外れていたことによる窒息死」と鑑定され、看護助手だった西山美香さんが「人工呼吸器の管を抜いて男性を殺した」とされて逮捕、13年も服役した。

 ところが、法医学者のその鑑定は、滋賀県警から「呼吸器のチューブが外れていた」という情報を得た上での「結論ありき」の鑑定だった。西山さんは呼吸器の扱い方も知らず、扱う資格もなかった。男性の死因は致死性不整脈の可能性が高かった。この事件は、西山さんが「恋した」という男性刑事が卑劣な誘導をしていたことで知られるが、法医学者の鑑定にも問題はあったのだ。

5月の結審ではひで子さんの渾身の思いを

 3日間の公判を終えての会見では、弁護団の間光洋弁護士が「弁護側の血痕に赤みが残らないという主張は疑いもなく立証できた。3人の先生(清水氏、奥田氏、石森氏)のおかげです。3人には東京高裁での差し戻し審でもご協力いただいた」と感謝した。

弁護側の鑑定人のひとり、北海道大学の石森浩一郎教授は法医学者ではないが化学が専門。「我々、科学者の世界では自明のことでも、ああいう場(法廷)で理解してもらうのには苦労しました」と吐露した。

 ひで子さんは「清水先生はじめ先生方の証言は素晴らしかった。大成功です。検察のほうは赤だ黒だと一生懸命反論するんですが、なんだか苦し紛れに聞こえましたね。もうひと山もふた山も三山も越えました」と笑顔で話した。そして「56年経ってやっと再審になってここまで来ました。皆さまのご協力のおかげです。本当にありがとう」と語る時には一段と声を大きくした。記者や支援者らに向かって、勝利を確信した様子を見せた。

 長い公判をまんじりともせずに弁護団席の一番前で背筋を伸ばして聞き続けるひで子さん。91歳でできることではない。何しろ小中学校の成績は「オール優」、数学にも強く、経理の仕事も長かった。そんな頭のよい彼女にとって、化学の専門用語が多く飛び出すとはいえ、法廷でのやり取りは十分、理解しているのだろう。

「小川(秀世)先生には『5月22日の最終日(結審予定)には発言してくださいよ』と言われているんです」と明かしたひで子さん。楽しみである。彼女らしく端的で短いのかもしれないが、渾身の思いを語ってほしい。

 そんなひで子さんが「以前より足が弱くなった」と心配する巖さんは、浜松市の「見守り隊」(猪野待子隊長)ら支援者の運転でドライブを楽しんでいるという。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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