伏線だらけ?朝ドラ「虎に翼」の新しさ “エキストラの女子”、松ケンの“甘味”の意味とは

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合いの手のように入る尾野真千子の「心の声」

 母親はるの留守中には、寅子の大学進学に理解を示し「母さんを説得する」「全部なんとかする」と大見得を切っていた父・直言。ところが実際にはるが戻ってくると、手のひらを返したように口をつぐみ、約束を忘れたように振る舞う。

 妻を怖がる不甲斐ない父親を前に、寅子は口には出さずに目の表情で訴える。寅子の心の声は、語りをする尾野真千子が代弁する。

「なんでなの?お父さん…」「そんなにお母さんが怖いの…?」

 兄・直道(上川周作)と親友の米谷花江(森田望智)の結婚式で、母に「結婚も悪くないでしょ?」と囁かれた寅子は、酔った父に引っ張り出されて余興で「モン・パパ」という流行歌を歌う。家の中でパパはママの尻に敷かれて頭が上がらない現状を子どもが暴露する歌詞だが、男性が圧倒的に上位にいたこの時代では、皮肉にしか聞こえない。女が幸せになるには結婚しかないと断言する母親の強硬な考えが変わる気配もない。寅子はなかばヤケクソで、笑顔を浮かべながら歌っていた。その表情に浮かぶ「心の声」を、やはり尾野真千子が代弁する。

「結婚は悪くない、とはやっぱり思えない。なぜだろう? 親友の幸せは願えてもここに自分の幸せがあるとは到底思えない」

「なんで女だけ、ニコニコ…こんな周りの顔色うかがって生きなきゃならないんだ? なんでこんなに面倒なんだ?」 

 尾野の声色は、次第に怒りの色を帯びてくる。

「なんでみんなスンとしているんだ?何でなんだ?」

 母親を始め、世の妻たちは家の中とは違って、外ではとりすました姿を見せる。表面的には笑顔を浮かべながらも、けっして本音を言わない女性たちに寅子は強い違和感を抱いていた。

 怒りがこもる寅子の内心の語り。客観的な描写も声色で読みわける尾野真千子の語り……演技派俳優による語りが入ると、役者たちの演技に思わず見入ってしまう。

伊藤沙莉と石田ゆり子の「目」の演技対決

 とはいえ、なによりのドラマの見どころは、伊藤沙莉の演技だろう。気乗りしない見合い相手と会話する時の表情や、前述のヤケクソの歌での表情など「泣き笑い」といえる微妙な感情を、伊藤は表面的には笑うが絶妙な“目は笑わず”の芝居を見せている。

 兄の結婚式場で、母に秘密にしていた女子部への願書提出がバレてしまう。偶然再会した穂高重親教授(小林薫)から大声で「合格だ」と告げられ、その場にいる母の反応を意識して寅子は固まってしまう。その困惑を「目」で表現する。直後に母・はるが視線を寅子に転じた時の怒りをみなぎらせた「目」。その方向には視線を合わせず、固まったまま窮地を脱しようとする寅子の「目」……そうした「目」の芝居対決も第1週の見どころだった。

 娘を思う母親は、「かつて女だから」と夢を諦めた自分と、寅子の今後を重ねる複雑な思いを抱いている。演じる石田ゆり子はそれを表情で演じていた。第5話で母と娘が向き合い、互いが涙目で思いをぶつけ合う場面も、2人の俳優の「目」の芝居対決だった。

(はる)
「今行こうとしている道であなたが心から笑えるとはお母さんは到底思えないの。どう進んだって地獄じゃない。そうでしょ? 頭のいい女が確実に幸せになるためには頭の悪い女のふりをするしかないの!」

 そう言って、見合いこそ寅子が幸せになる唯一の道だとはるは断言する。

「でも私にはお母さんの言う幸せも地獄にしか思えない」と反発する寅子。

 この場面の2人の演技は味わい深い。

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