【叡王戦】藤井聡太八冠が伊藤匠七段に勝利 「2強時代の到来」を予期させる名局を解説

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 4月7日、将棋の新年度最初のタイトル戦である叡王戦(主催・不二家)五番勝負の第1局が愛知県名古屋市の老舗料亭「か茂免(かもめ)」で行われた。藤井聡太八冠(21)に挑戦したのは、竜王戦と棋王戦の2つのタイトル戦に挑戦して敗退した同学年の伊藤匠七段(21)である。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

「充実感のある将棋」

 初戦に勝利した藤井がタイトル戦15連勝とし、大山康晴十五世名人(1923~1992)が持つ最多記録の17連勝に近づいた。伊藤は敗れたが、「将来は藤井と伊藤の2強時代となる」と思わせる一局だった。

 藤井は「終盤はかなり難しいところが多かったが、充実感のある将棋を指せた」と喜んだ。敗れた伊藤は「(『5五歩』とした局面は)『8七歩成』とやるべきだった」と悔いた。淡々とした表情だったが、悔しさが滲んでいた。

 先手は藤井。伊藤は得意とする「角換わり」に展開した。藤井は矢倉に自玉を囲うが、早くから玉を守っていたはずの銀や金が大胆に盤面の中央に繰り出していく。組んだはずの矢倉を早々に自分で崩していく将棋は、昔は珍しかった。そうせざるを得ないように伊藤が巧みな差し回しを見せていたともいえる。

 そして「2九飛車」と藤井が飛車を最下段に引いた。この飛車は左右に大きく動けるが、伊藤の対応次第では同じ手が繰り返され指直しになる「千日手」を誘発する。しかし、双方が「千日手」を回避した。

一進一退の攻防が続く

 昼食前の71手目に藤井が大長考に入った。71分の考慮の後、「2二歩」と敵陣に入り込んで攻めた。ABEMAのAI(人工知能)評価値は伊藤優位を示していたが、少しずつ差が縮まる。そして伊藤が「5五歩」と銀取りに行ったところで、AIの数値が勝率37パーセントに落ちた。

 最終盤に入ると、守りの薄い藤井玉が詰むかどうかを、ABEMAの解説陣の中村太地八段(35)が盛んに検討していたが、なかなか結論が出ない。一進一退の攻防も、藤井が「4一」に打ち込んでいた角が最後になって大きく効いてくる。玉が逃げると伊藤の攻撃の要の飛車を取られる格好だった。藤井が107手目に「6三銀」と王手をかけると、伊藤は盤に手をかざしてして投了した。

 終局直後に記者に長考した局面について問われた藤井は「『2二歩』を狙う予定でしたが、思ったよりも思わしくない展開になった。でも、変わる手も主張がないと思った」などと話し、全体的なことを問われると「自信がなく、見通しもなかった」と振り返った。勝利への分岐点については「『6六飛車』としてからは抜け出せた。自玉が安全になった」と話した。

 伊藤は「最後の最後に悪くした。何かチャンスがありそうで、形勢が良くなってもおかしくなかった」と話した。これまでは敗戦後の弁で、伊藤は解説者らが思っていたより早く劣勢を感じていたことを明かすことも多かったが、この日は自分でも最後まで互角と思っていたようだ。

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