そうそうたる女優陣の“地上波では見せない狂気の名演”に注目 女の悪意たっぷり「坂の上の赤い屋根」
子供の頃、同級生の母親で面倒臭そうな人が何人かいた。娘がもらした不満を担任教師に直接電話攻撃したり(娘がわがままなだけなのに)、息子の行動を逐一監視して、妨げたり遮ったりで成長の機会を奪う。過保護・過干渉の母親たちは40年ほど前にも存在したが、彼女たちは納得のいく人生を送っただろうか。あの子たちはどんな大人になっただろうか。同じことを繰り返していないといいけれど。
すべてを母親のせいにしてはいけないが、母親の業(ごう)が明らかに諸悪の根源で、一種の病を引き起こしたと思わせたのが「坂の上の赤い屋根」だ。「フジコ」(Hulu)、「5人のジュンコ」(WOWOW)でもおなじみ、真梨幸子原作なので、女どものキレッキレの悪意と業の深さが観られると期待していた。期待以上。そうそうたる女優陣が地上波では見せない狂気で盛り上げ、まんまとミスリードされたよ。
主人公は大手出版社・轟書房に勤める橋本(桐谷健太)。18年前、裕福な家庭の女子高生・青田彩也子(工藤美桜)がホスト上がりの恋人・大渕(橋本良亮)に両親を殺害させられた事件が起きた。彩也子は大渕に洗脳・脅迫されたと証言して無期懲役に。大渕は死刑が確定。死刑囚となった大渕の自叙伝本の編集を担当して、出世したのが橋本である。
橋本に売り込みに来たのが新人作家の小椋沙奈(倉科カナ)。大渕の自叙伝を精読、18年前の事件をモチーフにした小説を書きたいという。彩也子と同い年でシンパシーを感じるという沙奈。小説に深みをもたせるために事件関係者に取材する二人。クセの強い人と業の深い人が登場し、事件の背景が明らかになっていく。
事件当時、大渕のパトロンで轟書房の敏腕編集者だったのが市川聖子。演じるは斉藤由貴。使い込みで会社を追われ、今は清掃員だが、感覚は元のまま。取材を機にいっちょかみしてくる厚かましさ、若い男に溺れた浅はかさを熱演。
もとはイラストレーターで法廷画の仕事をきっかけに、大渕にひと目ぼれしたのが鈴木礼子(蓮佛美沙子)。大渕と獄中結婚までして手足となるも、劇中、最も不運で不憫な女である。エリート家庭に生まれたアドバンテージを生かせず、心はひどく荒(すさ)んでいる。街ゆく女性を心中で面罵する場面が印象的だ。蓮佛新境地開拓。
橋本の上司で、剛腕で有名な編集者・笠原智子(渡辺真起子)は、沙奈の企画に商機を嗅ぎ取る。用意周到に手柄を横取りするも、待ち受けていたのは烙印。名物の女が失敗したとき、男が嬉々として罵声を浴びせる構図には歯ぎしりしたけど。
最終話ですとんと腑に落ちる見事なミスリード。すべての悲劇が母親に起因すると思わせ、「母原病」という文字すら頭に浮かぶ。坂の上の赤い屋根の大きな家というのは女の業の象徴だ。そうそう、霧島れいか・宮崎美子・東風万智子の毒母っぷりも強烈だったなぁ。
真梨作品の特長でもある、女の底意地の悪さがにじみ出るセリフには耳が釘付け。あからさまな敵意よりも、称賛や配慮の皮を被った悪意のほうが耳に残るのよね。