「仕事にやりがいを感じる」は5%で145カ国中最下位! なぜ日本の会社員はやる気を失ったのか

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現金をためこむのは「経営」ではない

 従って、私は改めてこう断言したいと思います。日本の社員がやる気を失ってしまったのは社員のせいではない。コストカットを旨とし、縮み経営を自己目的化してきた経営者のせいなのだと。

 そして、社員がやる気を失っていることに気が付いた経営者は、マイクロマネジメント(部下への過干渉)を強化しました。やる気のない社員たちは、放っておくとサボるに違いないと考えて徹底的に管理し、逐一の報告を求めたり、なかには「会議で何を話すかに備えた会議」まで行う企業も出てきた。マイクロマネジメントのもとで社員の間に自主的なやる気が育(はぐく)まれることはあり得ません。ここでも、ますます社員のやる気が失われるという負のスパイラルに陥ってしまったわけです。

 こうした状況から脱するためにすべきことは、まずは社会の公器でもある大企業が縮み経営をやめて、社員に賃金として還元することです。先日の春闘では「過去最高水準」の賃上げ回答が相次ぎましたが、海外と比較すると圧倒的に不足していると言わざるを得ません。「そうはいっても、株価が4万円になったとはいえ、まだまだ日本経済は停滞していて先立つものがない」という経営者の“言い訳”が聞こえてきそうです。しかし、昨年9月に財務省が発表した大企業の内部留保は511.4兆円と、前年度から27.1兆円増えて過去最高を更新しています。大企業が抱え込む現金・預金はこの10年でおよそ8割増えています。先立つものはあるのです。社員に報いず、投資にも及び腰で、内部留保とりわけ現金・預金をため込むばかりでは、「経営」とはいえないでしょう。

副業を持つ方が安全

 次に、社員の側でできることは、例えば副業を始めてみることだと思います。似非成果主義のもとで賃金は抑えられながら終身雇用が保証されているわけでもない。そうした不安定な環境では、所属する企業に頼り切る「一本足打法」よりも、副業というもうひとつの軸足を持った「二本足打法」のほうが安全です。私自身、「日経ビジネス」の副編集長時代に、他社から小説を出版したことで精神的な安定が得られ、それが本業にも好影響をもたらしてくれたという経験をしています。

 副業をすることに疚(やま)しさを覚える必要はありません。これまで検証してきたように、一本足打法では不安だという状況を作り出したのは社員ではなく、縮み経営で社員のやる気をそぎ、追い込んできた経営者なのですから。

 ぜひ経営者には、今一度、社員のやる気の重要性を思い返してほしいと思います。日本に「GAFAM(Google等の巨大IT企業)」が生まれなかったのはなぜなのか。独創性の礎となる社員のやる気を軽視し過ぎたことが大きな要因なのではないか――。

「やる気」という言い方をすると情緒的に感じられるかもしれません。しかし、これは情緒の話である以前に、極めてドライな経済の問題です。企業が儲けたかったら、つまり付加価値を生み出したいのなら、社員のやる気を育てなければ始まらないのは当然のことではないでしょうか。

渋谷和宏(しぶやかずひろ)
経済ジャーナリスト、作家。1959年生まれ。大正大学表現学部客員教授。法政大学経済学部卒業後、日経BP社に入社。「日経ビジネス」副編集長、「日経ビジネスアソシエ」編集長、日経BPnet総編集長などを務めた後、2014年に独立。『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)などの著書がある。

週刊新潮 2024年4月4日号掲載

特別読物「新年度なのに『やる気』が出ない… 『サラリーパーソン』を蝕んだのは『経営者』」より

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