岸田政権下での日朝首脳会談は完全消滅…金与正が激怒した背後に金正日“忠誠派”
与正氏表現の意味
金正恩総書記と与正氏は、金正日氏の「遺訓」に従ったふりをしないと、幹部らに「日朝首脳会談」を説得できない。与正氏の発言は「反日派」に配慮したものだ。でも「拉致、核・ミサイルを持ち出すな」とは言わなかった。
そう受け取られる表現をしたに過ぎない。「(日本が拉致問題を)持ち出したから、(過去に)日朝関係は悪化の一途をたどった」と述べた。金正恩忠誠派の老人グループと軍幹部がヘソを曲げると、首脳会談はできない。この与正氏表現の意味を、残念ながら官邸は理解できなかったのだろう。
どうすれば良かったのか。林長官は(1)無条件での首脳会談実現(2)日朝平壌宣言に従い問題を解決するとだけ言うべきだった。平壌宣言は金正日総書記がサインした文書だから、誰も反対できない。平壌宣言の文言には、拉致問題を話し合える根拠がある。
もう一つ不可解なのは、岸田首相の姿勢だ。岸田首相は、4月の記者会見から「無条件の日朝首脳会談」の言葉を使わなくなった。何があったのか。一つは、総選挙(4月10日)を前にした韓国から「選挙が終わるまで、日朝首脳会談に言及しないでほしい」との申し入れがあった。
米国からは「首脳会談はいいが、国交正常化と経済協力資金の提供は問題」との意向が、伝えられた。
岸田首相の「別のルート」
官邸周辺では、拉致解決の主導権をめぐる省庁間の争いがあった、とも勘ぐられている。与正氏は3月25日に「岸田首相が別のルートを通じて、日朝首脳会談の意向を伝えてきた」と、歓迎する立場を述べた。これは、岸田首相の意向が公式に届いたとの、初めての言及だった。
この「別ルート」を知らない政府関係者は、驚愕した。「別の経路」は、北朝鮮と親しい国家の首脳が金正恩氏に岸田首相のメッセージを届けた、との意味だ。首脳の「経路」でないと、正恩氏と与正氏は受け取らない。北朝鮮と親しいベトナムかモンゴルの首脳が、首相メッセージを伝えたのだろう。
自分たちが知らないルートで首相が動いていると知り、妨害に走ったと語る人たちがいる。誰かが官房長官の記者会見問答集に、「拉致問題がすでに解決したとの主張は、全く受け入れられない」との表現を入れたのだ。
北朝鮮は、なぜ日朝首脳会談を必要としたのか。昨年末の党中央委総会で建国の目標であった「南北統一政策」を放棄し、史上初めて大韓民国と尹錫悦大統領の存在を認めた。以前は「南朝鮮」であったから、国内は混乱した。さらに、年初には唯一の同盟国であったキューバが裏切り、韓国と国交正常化した。この「失点」を巻き返すために、日朝首脳会談を必要とした。
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