妻と愛人が同居、想像しなかった二人の関係を知って…“何だかスッキリしない生活”を続ける52歳夫の本心
思わず隣に移動して…
容子さんは酔いながらも、「コーヒーいれるからつきあって」と言った。芳裕さんは、学生時代、喫茶店でアルバイトをしていたことがあり、コーヒーをいれるのは大好きだから、僕がやりますよと引き受けた。
「僕がいれたコーヒーを彼女は、本当においしいと言ってくれました。飲みながらしみじみと『年をとるのはつらいわね』と話し出した。少し前に、仲良くしていた女友だちが病気で亡くなったそうで、本当につらそうでした。『これからはみんなで助け合って生きていくしかないですね』と言うと、『そうね。私もいつまでこの孤独に耐えられるかわからない』って。いつも明るくて気っ風のいいマダムという感じの彼女が初めて見せた弱さでした。ソファに向き合って座っていたんですが、思わず隣に移動して抱きしめてしまいました」
深夜、いい年をした大人の男女がふたりきりで、しみじみ話をしていたら妖しい雰囲気になっても不思議はない。妻の友だちだという意識は飛んでいった。
「愛しかったんですよ、彼女が。性的な欲望はもっていなかったような気がするんだけど、愛おしさの表現として、この人とつながりたいと思った。ソファでそのままひとつになりました。あれほど優しい、せつないほど優しいつながりは初めてでした」
自分はひとりじゃない。ふたりともそう思ったという。彼女への欲望というより、「生きとし生けるもの」への愛情だったと彼は主張する。それでも男と女である。単なる「情」では関係は続かない。
「どうしてかわからないけど、容子さんと離れられなくなったんです。彼女の家にときどき通うようになりました」
妻からの“まさか”の申し出
ある日、自宅に戻ると容子さんが翔子さんと話し込んでいた。ドキッとした彼だが、話を聞いてさらに驚くことになる。
「妻が言うには、マンションを建て替えるので容子さんが立ち退きを食らっていると。今、店も忙しくて引っ越し先を見つけられないので、しばらくここにいてもらおうと思ってるのと言うんです。うちは2階建てで確かに部屋はあいているけど、古いし決して住環境がいいとは思えない。すると容子さんが『立ち退きの件も、急に電話が来て、すぐに出ていけという感じだったので弁護士を頼もうと思っているの。せめてその件が片付くまで置いてもらえないかしら』って。彼女が家にいるとリアルに考えたら、なんだか妙な情熱がわいてきたというか、刺激的だなと思った。一方で、妻にバレたらまずいとも考えた」
言葉がうまく出ず、「うちでよかったら使って」と言ってしまった。家賃は払うからと容子さんは言った。この年になって同居人が増えるのもおもしろいとは思ったが、とにかく相手が悪い。
「僕たちの関係はどうなるのと、容子さんとふたりきりのときに聞いたことがあるんです。とりあえずしばらくはおとなしくしてましょと言われました。僕も、妻がいる家でそんなことはできないと理性では考えていた」
だが、実際に一つ屋根の下に住んでみると、悶々とする夜もある。妻が寝ているのを確認して、容子さんがいる2階にこっそり上がっていったこともあった。容子さんは部屋には入れてくれなかった。
[3/4ページ]