驚異の「9秒58」 ソフトバンク「周東佑京」が開幕シリーズで見せた“新俊足伝説”に迫る!
出塁によって生まれる“周東効果”
この試合でも、3回に2024年のシーズン初ヒットを三塁線へのバント安打で決め、次打者の今宮健太の初球に、すばやく二盗を決めている。
そのスピードが、相手バッテリーには残像として、その脳裏に焼き付いている。僅差の終盤。だからこそ、よけいに盗塁はされたくない。スタートを切らせたくない。
ゆえに、次打者の今宮に対して、スピードの落ちる変化球ではなく、ストレート中心になってしまうのがバッテリー心理だ。
これも、出塁することによって生まれる“周東効果”の一つでもある。今宮も、もちろん分かっている。初球は141キロ外角球。狙いすましたかのように、右翼線へ流し打った。
鋭い当たりがライトの定位置と、右翼線の間あたりで跳ねた。
オリックスの右翼・杉本裕太郎が、右翼線の方へ回り込みながら打球を処理する。特に戸惑ったわけでも、緩慢だったわけでも何でもない。ごく普通の打球処理だ。
これで一、三塁。誰もが、そう思った。ところが、周東は止まらない。三塁を蹴って、本塁へ突っ込んでいく。
えっ? カットマンのセカンド・西野真弘が慌てて本塁へ送球したが、ヘッドスライディングの周東の手が、先にホームベースに届いていた。
「標準」タイムより約3秒も速い
記録は二塁打。しかし、明らかに「シングル」の当たりだった。つまり、一塁からヒット1本でホームインしたのだ。分かっていたこととはいえ、何とも恐るべき『足』だ。
打者がボールをバットでコンタクトした瞬間、つまり「打球音」を合図にストップウォッチを押し、ベースにどちらかの足が触れるまでの到達タイムを測定する。
一塁まで4秒3、二塁まで8秒3、三塁まで12秒3。
左バッターの場合、このタイムを切るのが「標準」とされ、さらに一塁までなら4秒、二塁までなら8秒、三塁までなら12秒を切れば「俊足」と分類される。
周東が“右前打”で一塁から生還したタイムは、私の手元のストップウォッチでは「9秒58」を示していた。
打席とは違い、一塁ならばリードも取っているし、打った瞬間、即スタートを切れるゆえに、単純比較はできないのだが、三塁打での「標準」より、約3秒も速いのだ。
周東がバントヒットを決めた3回、その時の一塁到達タイムは3秒47。セフティー気味ゆえに、打席内で“走り打ち”のような形になっているため、普通のスイング時より一塁到達タイムが速くなるとはいえ、これも標準タイムより1秒は速い。
塁間は27.431メートル。これをバントヒット時の3秒47で換算すれば、秒速7.90メートルになる。標準の4秒3なら秒速6.38メートル、つまり、1秒違えば、およそ1.5メートルの差がつく。
周東の“3ベース分”の走りで生んだ「3秒」のアドバンテージは、およそ4.5メートルという距離の違いになる。
だから、もし周東と“並みのスピードの走者”が一緒にスタートを切ったとしても、周東がヘッドスライディングで生還した時には、まだ本塁手前でスライディングの態勢に入るくらいのタイミングだろう。
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