「あなたをおじいちゃんと呼んでみたいんです」 歌人・木下龍也が亡くなった祖父にもう一度会いたいと強く願う理由
もし願いがかなうのであれば…
だからもし願いがかなうのであれば、もう一度あなたに会ってみたい。どうしておばあちゃんと一緒に暮らしていなかったのかを問い詰めたいわけではないんです。当事者同士にしか分からない事情があり、家族にもさまざまな形があることを今は理解していますし、後悔していても、していなくても、亡くなったあなたには変えようのないことですから。そうじゃなくて、居酒屋のメニューで何が好きかとか、どんな映画を観て、どんな本を読んできたかとか、あなたの両親はどんな人だったかとか、どんな子どもだったかとか、仕事や趣味とか、誰とでもするような普通の話を、誰かの声ではなく、あなたの声で聞いてみたい。普通の話をして、距離を縮めて、あなたでも祖父でもなく、おじいちゃんと呼んでみたいんです。
僕が生まれる前に亡くなった父方の祖父のように、一度も会ったことがなければこんなふうには思わなかったでしょう。断片的で余白の多い記憶に、前後や奥行きを求めてしまうのは短歌を仕事にしている僕の癖です。おばあちゃん子だった僕はきっと、おじいちゃん子にもなれると思います。そして、おばあちゃん子だった僕は、別れ際に我慢できず、おばあちゃんについてどう思っていたかを聞いてしまうかもしれません。そのとき、どんな答えが返ってきても僕は笑って手を振るでしょう。それくらい僕はもう大人になってしまいました。
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