“命がけ”真田広之の強いこだわりが随所に…ディズニープラスで配信中「SHOGUN 将軍」で描かれる日本人の本質

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原作者が本当に言いたかったこと

「もう一点、この2024年版が成功した要因は、原作小説の大筋を生かしながら、全編をダイナミックな政治ドラマに格上げさせた点でしょう」

 映画ジャーナリスト氏は、その点を強調する。

「もともと原作小説は、ブラックソーン(按針)が次第に日本語や日本文化を理解し、鞠子(細川ガラシャ)と心を通い合わせるようになる、ラブロマンスが主軸でした。1980年版も、そこに力を入れていて、だからこそ島田陽子の人気が爆発しました。しかし今回は、それらはあくまで脇筋です。日本を襲う巨大な宗教上の陰謀や、国内の争いに苦悩する虎永(家康)の姿が強調されています。鞠子も内に強いものを秘めた女性として描かれ、海外育ちの日本人、アンナ・サワイが見事に演じています。これこそが、原作初出から半世紀後のいま、ふたたび映像化された理由だと思います」

 よって、まさに、21世紀のいま、世界各地で起きている宗教・民族・国家間の紛争や、女性差別を代弁しているように観ることもできるのだ。

 だが、先の海外出版の編集者は、こんな皮肉な見方を提示する。

「今回、あまり話題になっていませんが、実は原作者のジェームズ・クラベルは、日本では、ある超ロングセラーの著者なんですよ」

 それは、『23分間の奇跡』(青島幸男訳、集英社文庫)。1983年に邦訳初刊。以後、40年以上たったいまでも読まれている名作である。かつて、読書感想文の課題図書で読んだ方もいるのではないか。

「原題は『The Children’s Story』。邦訳で90頁足らずの短編です。舞台は、戦争で負けた、ある国の小学校のクラス。そこへ新任の女性教師がやってきて、朝のたった23分間で、子供たちを、社会主義国と思しき戦勝国の思想に”洗脳”してしまう話です」

 青島幸男は「訳者あとがき」で、こう書いている――〈思えば、この国にも似たようなことがあった。/「鬼畜米英われらの敵だ」「撃ちてしやまん」……(中略)やがて、ラジオから流れる”カム・カム・エブリボーデ”のメロディとともに、子ども心はするすると戦後の民主主義に変っていったのであり、”鬼畜米英”はいつの間にかどこかへ消えたのであった。〉

「この『23分間の奇跡』は、もとは1963年に女性誌に発表された寓話でした。それが1981年になってクラベル自身の脚本・監督でTVドラマ化されるにあたり、初めて単行本化されたのです。つまりTVドラマ『将軍』大ヒットの翌年です。日本人について研究していたクラベルだけあって、この寓話は、青島幸男がいうように、単純に洗脳されてしまう日本人の姿がモデルともいわれました。だとしたら、クラベルが『将軍』でほんとうに描きたかったのは、単なる歴史劇ではなく、すぐに外国に従ってしまう日本人の単純な気質だったような気もするのです」

 実は『将軍』こそは、日本人の本質を見事に突いた、典型的な”日本人論”だったのかもしれない。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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