“命がけ”真田広之の強いこだわりが随所に…ディズニープラスで配信中「SHOGUN 将軍」で描かれる日本人の本質

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真田広之のこだわり

「今回の主演は真田広之ですが、彼が総合プロデューサーもつとめています。まずこのことが、2024年版が成功した理由でしょう」(映画ジャーナリスト)

 真田は、まさに“命がけ”といってもよいような、八面六臂の大活躍だったようだ。

「1980年版とちがうのは、今回は、全編がカナダで撮影された点です。前回はアメリカ側が来日し、主に大映のスタッフを起用して、ほとんどが日本で撮影されました。三重県の紀伊長島町(現・紀北町)の海岸に村落や港の巨大オープンセットをつくり、アメリカから原寸復元された巨大帆船を回航。室内セットは、当時まだ稼働していた大映京都撮影所に組まれました」

 だが今回は、ロケもセットも海外である。そのため、真田は出演オファーにあたって、「日本人の役は日本人がやり、日本から時代劇専門のスタッフを呼ぶ。それを認めるなら引き受けますよ」と答えたという(読売新聞3月24日付)。

 そこで、カツラ、衣裳、セットデザイン、所作、殺陣、小道具など、”日本文化”にまつわるスタッフはすべて、日本から専門家を呼んだ。脚本も真田自身が全編チェックし、日米間で何度もやり取りを繰り返し、英文も日本語訳も修正させた。結果、それまで日本のTVや映画では観たことのないヴィジュアルが登場した。先の映画ジャーナリストの話。

「当時は電気などありませんから、夜間はロウソクやタイマツで灯りをとっていました。しかし、広い城内や屋敷内で、1本や2本のロウソクでは役に立つはずありません。大量に立てないと、灯りにならない。このドラマは、そこが徹底しており、夜間のシーンは、常にものすごい数のロウソクやタイマツであふれているのです」

 それだけに、いままでの時代劇しか知らない日本人には、夜間のシーンは、かえって異様に感じたようだ。SNSでは、これらを指して「ハリウッドが誤解して大げさに描いている」との声もあったという。

「しかし、これが正確なのです。大河ドラマで、1本のみのロウソクで会話しているような夜間シーンがよくありますが、あんなことはありえないのです。さらに、炎は常に揺れていますから、室内では影もチラチラ揺れていたはずです。今回はほぼ自然光で撮影されたと思われ、夜間シーンは極端に薄暗く、影が揺れている。ここまで徹底して描かれた時代劇は初めてでしょう」

 もうひとつ、この映画ジャーナリストが感心したのは”殺陣”のシーンだった。

「いままでの時代劇では、剣道試合のように刀を上下左右に振ると、相手はバッタリ倒れていました。これまた、当時の殺し合いでは、ありえない。実際には、喉首を斬り割いて、失血死させるのです。よって今回は、刀を敵の首筋にあてて、真横に引き裂く殺陣が続出しています。これらは、有料配信ドラマだからこそ可能になった演出です。地上波ではとても無理だったでしょう」

 こういった細かい点を、真田広之が徹底して指導した。

「1980年版でも、三船敏郎が『日本のサムライは、そんな物言いはしない!』と、セリフを直させています。しかし、あくまで自分自身のシーンに関してのみでした。しかし今回、真田さんは自分の出番のないときでも常に現場にいて、すべてのシーンにかかわり、徹底的に指導したといいます」

 真田広之は、映画「ラスト サムライ」(2003)への出演を契機に、ロサンゼルスに拠点を移した。以後、アメリカの映画やドラマに出演しながら、日本文化に関連した映像などのアドバイザーをつとめ、正確な日本の姿を世界に発信することに腐心してきた。その苦労が、20年目にしてようやく結実したのだ。

「しかし真田さんは、決してガチガチの時代考証にこだわっていません。ちゃんと欧米人が喜ぶような演出も残している。たとえば今回でも、南蛮人を釜茹での刑にしたり、低頭しない村人をその場で殺害したりするなど、原作小説にあったメチャクチャな場面も、ある程度、残しているのです。また、虎永(家康)が伝書鳩を使って情報入手するシーンがありますが、当時の日本には、伝書鳩はまだ伝わっていません。こういう硬軟あわせもった描き方が、世界で受け入れられた要因だと思います」

 もちろん、CGもふんだんに使用されている。

「さすがにハリウッドだけあり、どこまでが実写でどこからがCGなのか、判然としない自然な仕上がりです。昨年の大河ドラマ『どうする家康』は珍妙なCG場面が続出して失笑を買いましたが、あれとはレベルがちがいます」

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