“命がけ”真田広之の強いこだわりが随所に…ディズニープラスで配信中「SHOGUN 将軍」で描かれる日本人の本質
日本でもドラマが放映
邦訳『将軍』は、1980年にTBSブリタニカから全3巻で刊行され、日本でもベストセラーとなった(綱淵謙錠監修、宮川一郎訳)。
「TBSブリタニカ(現・CCCメディアハウス)からの刊行という点がポイントです。というのも前年の1979年、同社からエズラ・ヴォーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(広中和歌子・木本彰子訳)が出て、大ベストセラーになっていたのです。敗戦国・日本がこれほどの高度成長を遂げた理由に、日本人の勤勉性や読書習慣があることを指摘した、一種の“日本礼賛”本でした。その版元から、つづけてアメリカ人による“日本人論“的な小説が出たとあって、注目度がちがいました」
発売1週間で10万部を突破、この年のベストセラー第8位にランキングされている。
「なにしろベテラン映画脚本家の筆ですから、ほとんどが会話で進行し、実に読みやすい。全3巻で1500頁超のボリュームながら、読み出すと止まらない小説です」
内容はあくまでフィクションだが、関ヶ原合戦の前夜がモデルとなっている。史実では、秀吉の没後、徳川家康を含む五大老や石田三成らによる合議制の時代だ。混乱と緊迫の日々が、イングランド人航海士・ブラックソーンの視点で描かれていた。
当時、週刊新潮が、さっそくこの小説を特集記事で紹介している(1980年9月25日号「欧米で1000万部のベストセラー『将軍』で合点される『日本の歴史』)。そのなかで、いちはやく読んでいた比較文学者の芳賀徹・東大教授(1931~2020)は、こんな感想を述べている。
「作者のクラベルは面白い時代に目をつけました。(略)もちろん、史実と合わせれば、おかしいところはいっぱいありますよ。荒唐無稽なとでもいうんでしょうか。でも、なかなか読ませるところもありました。特に、イエズス会の連中とブラックソーンらがいがみ合うところなんか、宗教上の対立をうまくストーリーの中に埋め込んでいますね」
実は、それこそが、この小説の面白さのひとつだった。先の編集者が語る。
「地球上はポルトガルのイエズス会(カトリック)とイングランド(プロテスタント)の2派による“分割支配”が決まっている。日本は、両派の覇権争いの舞台で、いままさにポルトガルによって”侵略”されかけている。しかし日本の戦国大名たちは、そのことに気づいていない。そこへ漂流してきたイングランド人が真実を伝える……のちの江戸時代=太平の世が成立した背景には、ひとりの西洋人がいたというわけです。海外では、この設定が受けました」
この小説が、1980年、米NBCで計9時間のTVミニ・シリーズとなり、全米で最高視聴率36.9%の大ヒットとなる。放映日には飲食店の客足が減るとまでいわれた。これを機に、アメリカで「寿司ブーム」が起き、日本人が「佐藤サン」「鈴木サマ」と呼ばれるようになった。これらは総じて“ショーグン現象”とまで称された。
日本では、1980年に2時間余に編集された映画版が劇場で先行公開。翌1981年、テレビ朝日系列で完全放映された。元駐日大使で、ハーバード大学のライシャワー教授が解説者として登場。第1回は31.3%の高視聴率を記録した。
物語の主要登場人物は、こうだ(日本人名の表記は、2024年版ドラマに即した)。
・名前【史実のモデル】→1980年版ドラマの俳優/2024年版ドラマの俳優
・吉井虎長【徳川家康】→三船敏郎/真田広之
・戸田鞠子【細川ガラシャ】→島田陽子/アンナ・サワイ
・ジョン・ブラックソーン(按針)【ウィリアム・アダムス(三浦按針)】→リチャード・チェンバレン/コズモ・ジャーヴィス
・樫木藪重【本多正信】→フランキー堺/浅野忠信
・石堂和成【石田三成】→金子信雄/平岳大
・戸田広松【細川藤孝】→安部徹/西岡徳馬
・宇佐美藤【按針の妻】→千野弘美/穂志もえか
・落葉の方【秀吉の側室・淀殿】→佐野アツ子/二階堂ふみ
1980年版ドラマは、エミー賞作品賞のほか多くの賞を受賞した。特に鞠子役の島田陽子はゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得し、一躍“国際女優”となった。
当初、鞠子役はジュディ・オングだったが、《魅せられて》がヒットしはじめていた。そんな時期に1年以上撮影に縛られることは不利だとして、泣く泣く降板する。当時、TV「ザ・ベストテン」で、涙をこらえて降板を語るジュディの姿が話題になったものだ。
さらにアメリカでは、登場する女性たちの姿が話題となった。
「女性たちは、常に一歩下がって男を支える存在として描かれている。これには、当時のウーマン・リブ運動を苦々しく思っていた旧態依然たる男どもが、溜飲を下げました。特に島田陽子の気丈で献身的な姿は、欧米人が勝手に理想とするニッポン女性そのものでした。TVにしてはけっこう際どい島田の服を脱ぐ場面も話題となったものです」
そして原作初出から約半世紀、ふたたび、この物語がドラマ化されたというわけだ。
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