坂本龍一は「そのままの音をそのまま出す」ことを目指した 音響監修を担当した“新宿の映画館”に遺したもの

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 極彩色の広告、絶え間ない人混み、人々の話し声――。「カオス」とも表現される騒々しさの新宿・歌舞伎町、その一角に建つ東急歌舞伎町タワーの9・10階には、何かに守られているような静寂の空間が存在する。坂本龍一氏が音響監修を務め、株式会社東急レクリエーションが運営する映画館「109 シネマズプレミアム新宿」だ。

 シックな色合いのエントランスを抜けると、様々な形のソファが並ぶホテル風のラウンジが広がる。腰を落ち着けて体の緊張を解けば、耳に入るのは坂本氏の楽曲。音の響きが美しすぎる楽曲で耳の疲れが癒やされたあとは、坂本氏が求めた極上の「音」とともに映画を堪能する。通常料金は一般のCLASS Sが6500円、CLASS Aが4500円と高価だが、現実をしばし忘れられる一連の上映体験は唯一無二だと言える。

 オープンは2023年4月14日、坂本氏の死去発表から12日後のことだった。「坂本氏が残した映画館」として大きな注目を集めてからもうすぐ1年。「豪華設備の映画館」という一言では到底表現できないこの空間に、坂本氏が本当に残したものとは何だったのか。それらは今後どのように受け継がれ、芽吹いていくのか。同館の支配人であり、開発時に坂本氏とのミーティングに参加した経験を持つ廣野雄亮氏に話を聞いた。

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聖地になった映画館

――廣野さんは開発段階からこの映画館に携わられましたが、支配人になることはいつ決まったのですか?

 23年の年始あたりです。当時は開業準備室に籍を置いていたので、何らかの形で運営に携わることは自然の流れでしたが、支配人になるとは(笑)。とはいえ、このビル(※)は弊社にとって大切な場所であり、この映画館も開業前から弊社が一丸となって取り組んでいた重要なプロジェクトですから、社からのサポート的な意味での心強さはありました。(※東急歌舞伎町タワーの前身である新宿東急文化会館は、ロードショー館 「ミラノ座」を擁するなど、新宿文化の担い手的存在であり、株式会社東急レクリエーションが運営していた)

 坂本さんにご協力いただいた経緯から、オープン前に改めて坂本さんに関する本などを読み、曲を聴き直しました。ファンの方からご質問いただいた時に「知りません」とは絶対に言えませんから。オープン後は実際、プレミアムラウンジ「OVERTURE」(CLASS S利用客が鑑賞後に利用できるラウンジ)で流している坂本さん選曲の楽曲について、その意図をお答えする機会などが多々あります。

――坂本さんファンの「聖地」になっているようなイメージでしょうか。

 ありがたいことに、そのように捉えてくださっているファンの方もいらっしゃると感じています。坂本さんに会いに来る感覚で来たというお客様や、坂本さんの残した映画館はどんなものなのかと見に来てくださったお客様、坂本さんがつくったラウンジ(全観客が利用できるウェイティング用ラウンジ)の音楽に聴き入っていらっしゃるお客様もいらっしゃいます。

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