「大谷依存」やめませんか? 「海外で活躍する日本人」でしかプライドを保てない日本の惨めさ(中川淳一郎)

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 大谷翔平選手、結婚おめでとうございます。しかし、多くのメディアが大谷に依存し過ぎていませんか? あまりに大谷の情報ばかり取り上げるものだから「大谷ハラスメント」なんて言葉さえ出てくる。当然大谷は何も悪くないです。強豪ドジャースに移籍し、メジャー最高契約金を獲得、結婚までした大谷に注目したくなるのは分かりますが、そろそろ「他の話題も出していただけますか? 私たち、野球と芸能ネタだけを求めているワケじゃないんです……」という大衆の気持ちも理解してくださいよ。

 結婚したばかりで、韓国でのドジャースvsパドレス開幕戦2日前の3月18日、大谷の名が新聞テレビ欄に登場する回数をXユーザー「マンポジ」氏がハイライトし、投稿しました。私が佐賀新聞で見ても構わなかったのですが、やはり東京の新聞のテレビ欄なのでマンポジ氏の画像からの回数紹介の方がいい。あ、もうそろそろ「X(旧ツイッター)」と書くの面倒くさいので、私は「X」で補足はしないようにします。

 その結果、日本テレビ=5回、テレビ朝日=5回、TBS=5回、フジテレビ=3回。どれだけ一日中大谷に頼ってるんだよ! 特に韓国代表とドジャースの試合を放送したテレ朝がすごい。

「韓国も大谷フィーバー 最新試合&調整状況は」「大谷妻は元バスケ選手」「ド軍が韓国で前哨戦‼大谷ショータイム詳報」「韓国戦直前!大谷最新『開幕の地』で大歓声」「速報!!ドジャース大谷MLB開幕直前韓国戦」

 これがこの5回の番宣のテレビ欄の見出しですが、練習試合でコレですよ。実際の開幕戦ならもっとすごくなるでしょうし、ワールドシリーズの日ともなれば、1日10回テレビ欄にこんなあおり文句を書くかもしれない。

「愛する妻に捧げる世界一のリングへ大谷準備万端!」「よくぞ二刀流を認めてくれた!栗山監督とエ軍への感謝とその交流」「これまでの6年間はこの歓喜のためにあった!さあ、大谷、シャンパンファイトは目の前だ!」

 多少誇張しているとは思うものの、この手のものは出てくるでしょう。とにかく今の日本はプライドを保つために大谷に頼り過ぎていると思います。大谷がMLBで最高の選手であることはよく分かる。しかし、大谷に日本人としてのプライドを押し付けるのはどうなのか? これだけ民放各局が「MLB開幕戦の前のエキシビションマッチ」を大々的に扱うというのは異常事態。

 日本人って、海外で活躍する日本人でしか自身のプライドを保てない情けない民族になったんだな、と思いました。ひたすら「大谷を全米が大絶賛!」「大谷を韓国のファンも絶賛!」ばかりやっている。

 そして、日本国内で行われるスポーツイベントでは、「カナダ人記者が日本のスタジアムグルメのクオリティーの高さを絶賛!」なんてことを書く。本当に海外からの日本礼賛にしか頼れない惨めな国になったんだな、と思う大谷だらけのテレビ報道でした。

 しかし、テレビ東京=0回だったのは少しだけホッとしました。こういう時、空気を読まずわが道をまい進するテレビ東京には感謝です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年4月4日号掲載

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