企業の“転勤”が減ったら「街の不動産屋さん」の倒産が急増? “アフターコロナ”の社会変化が“不動産仲介業”を直撃した意外な理由
コロナ禍以降も“戻りが鈍い”賃貸需要
――その一方で、“住み替え”自体が減っているというデータもあるようです。
「そうなんです。コロナ禍で賃貸需要はガクッと低下したんですが、昨年に入っても需要の戻りは鈍いままでした。昨年3月の“賃貸成約件数”は2万3000件で、3万件前後で推移していたコロナ以前の同月の水準と比べると、8割程度にとどまっています。街の不動産屋にとって主な収入源である“入居希望者への物件紹介数”がなかなか回復しないことは、倒産の急増に拍車をかけた要因のひとつとも考えられますね。そこにはアフターコロナにおける企業の働き方の変化も影響しているように思います」
――企業の働き方改革? 具体的にはどんな影響ですか。
「はい、たとえば週1日だけ出社して、残りの日はリモートワークでという会社員の場合、勤務先が都内から北関東に移った程度では引っ越しは考えないでしょう。また、社員のリモートワーク率が増えれば大きなオフィスを維持する必要もなくなるため、企業が地方の支社を閉鎖することも増える。となれば当然、転勤も減っていきます。そして、ここ最近、別の理由で“転勤”に頭を悩ませているのが企業の採用担当者です。メガバンクや商社といった人気職種には転勤が多い企業も少なくありませんが、自分らしい生活サイクルや趣味を重視する学生たちの多くは“転勤のある職場”を敬遠しがち。数少ない若くて優秀な人材を確保したい多くの企業では、地方への転勤を廃止したり、選択制にしたりする方向に舵を切り始めています。結果、転居を伴う“転勤”が減少したので、不動産業者を利用する機会も減ってしまった、と」
「空き家問題」解決の一助に?
――なるほど。それでは“街の不動産屋さん”に活路はあるのでしょうか。
「“部屋探し”という意味では、今後も物件情報サイトをはじめとするIT化に拍車がかかっていくと思います。とはいえ、私たちがそういったサイトで検索する項目は、間取りや賃料、最寄り駅からの距離といった程度。その点、長い年月、ひとつの街に根を張って商売をしてきた不動産業業者は、物件に関するよりディープな情報を持っていると思うんですね。たとえば、いま多くの自治体で深刻化している“空き家”問題。県外から移住してきた家族が空き家の購入を希望した場合、あるいは、空き家を改装して“古民家カフェ”を開きたいとの要望があった場合、街の不動産屋が仲介する意味は大きい。その物件が空き家になった経緯を説明したり、地元を離れてしまった空き家の地主や親族と連絡を取ったりと、様々な役割が期待できます。ネット上には出てこない不動産の情報に精通していることは大きなアドバンテージですし、そこに新たなニーズも生じると思います」