映画「アイアンクロー」 鉄の爪・エリック一家とブルーザー・ブロディの知られざる関係とは

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ブルーザー・ブロディとエリック一家の関係

「アイアンクロー」では他のレジェンド・レスラーたちも俳優たちの名演で復活している。ハーリー・レイス、リック・フレアー、そして一瞬しか出ないが、特筆すべきはブルーザー・ブロディだ。“キングコング”や“超獣”という猛々しい異名を貰う一方で、元は新聞のコラムニストだった前歴や、その哲学者然とした風貌かつ、「今日すべきことを、明日に延ばすな」を信条としたストイックな姿勢で、日本では絶大な人気を誇った。

 ブロディは若きエリック兄弟の対戦相手ながら試合前、笑顔を見せる。非常に印象的なシーンだった。というのも、ブロディにプロレスの基礎を教え、チャンスを与え、全日本プロレスに紹介したのがフリッツであり、いわばブロディはフリッツの秘蔵っ子なのである。だからブロディ自身、エリック兄弟のことを実の弟たちのように思っていたのだった。ブロディ(本名=フランク・グーディッシュ)に対する、ケビンのこんな回顧も残っている。

〈フランクは僕らの家族だった。父は彼のことを息子同然に思っていたし、僕やデビッド、ケリーら弟たちにとっても兄貴のような存在で大好きだった。(中略)大観衆を前にして、僕とデビッドはひどく緊張していた。そんな時、いつもそばにいてくれたフランクが励ましてくれた。ただ『リラックスしろよ』と言ってくれるだけなんだけど、それがとても心強かった〉(「ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児」東邦出版より)

 1984年2月12日、デビッドの葬儀が日本の教会でおこなわれた。棺の中のデビッドを見つめたブロディは、次の瞬間、大きく体を折り曲げた。デビッドの額に、キスをしたのだった。そして、大粒の涙を流した。“キングコング”、“超獣”という異名ではなく、不思議と以下の一言が思い出された瞬間だった。

「今日すべきことを、明日に延ばすな」

「映画ファンだけでなく、全国のプロレスファンの方々に、ぜひ観ていただきたい作品です」(配給元の宣伝担当者)

 往年のフリッツを知らない若いプロレスファンでも、「史上最強の一家」を目指した家族の物語に震撼するはずだ。

瑞 佐富郎
プロレス&格闘技ライター。愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。シナリオライターとして、故・田村孟氏に師事。フジテレビ「カルトQ~プロレス大会」の優勝を遠因に取材&執筆活動へ。近著に『アントニオ猪木』(新潮新書)、『プロレスラー夜明け前』(スタンダーズ)など。BSフジ放送「反骨のプロレス魂」シリーズの監修も務めている。

デイリー新潮編集部

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