映画「アイアンクロー」 鉄の爪・エリック一家とブルーザー・ブロディの知られざる関係とは

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「鉄の爪」エリック一家を描いた映画

 4月5日(金)、アメリカ映画「アイアンクロ―」が全国公開される。タイトルにある通り、アイアンクロ―こと“鉄の爪”を主な武器にした伝説のプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックとその一家を、ほぼ史実に即して描いた映画である。

 この説明だけで胸騒ぎがするプロレスファンも多いはずだ。フリッツの息子たちも、ほぼ全員がプロレスラーとしてデビューしており、父親も含め、日本でも大活躍した。そして、彼ら家族のドラマも、極めて濃厚なものとしてファンの間では知られている。例えば、彼らにはこのような形容がつきまとった。

「呪われた一家」

「悲劇のエリック・ファミリー」

 2024年は、エリック一家にとって日本で忘れえぬ出来事が起こった1984年から40年となる。その節目の年に公開される「アイアンクロ―」。同作内では描かれなかったエリック一家の、特に日本での活躍を振り返り、プロレス界に与えた多大な功績と共に、哀切の事実を綴りたい。

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 まずは父親のフリッツ・フォン・エリックである。実をいうと、彼は日本武道館で初めて試合をした外国人プロレスラーなのである。具体的に言えば、当時のメジャー団体であり、力道山の時代から続いていた「日本プロレス」が、1966年12月3日にプロレス会場として日本武道館を初使用。その切り札として招聘したのがフリッツだったのである。

 背景にはこの年10月、アントニオ猪木が率いるインディ団体「東京プロレス」が旗揚げしたことがあった。老舗の日本プロレスとしては、初めての大会場を使うことで、その威容を見せつけたかったのだ。

 そして、主役のフリッツの最大の売りが、その得意技であるアイアンクロ―であった。右手で相手を顔面や腹部を掴むだけの単純極まりない技である。プロレスをモチーフにした人気漫画「キン肉マン」でも、キン肉大王(キン肉マンの父)の必殺技として紹介されていたが、他の技は何コマも使ってその仕掛け方が分割説明されていたにも関わらず、この技だけは、「単純な技のため、分解図なし」と書かれていた(「キン肉マン」13巻より)。ところが、驚くなかれ、フリッツはその握力が200キロを超えていたというのである(数字は「アサヒ芸能」2021年9月16日号他、数媒体より)。

 ハンマー投げの室伏広治でも握力は132キロだというし、何よりギネス記録が192キロであるため大袈裟な表記に思われるかもしれない。だが、円盤投げの出身高校記録を持ち、握力が160キロを記録した彼の四男、ケリー・フォン・エリックが握手で父と勝負したところ、「数秒も耐えられなかった」と言うから、少なくとも170~180キロはあったと思われる。

 ちなみに、フリッツのアイアンクロ―を初めて受けた日本人は、今でも会場に取材に来るプロレス評論家の門馬忠雄さん。初来日の時、取材の絵作りの犠牲になったわけだが、実際、100キロまでの握力計でその数字を測ろうとすると、針がクルクル回り、とても計測できなかったと聞いたことがある(※当時の報道では、135キロ程度ではと予測している)。リンゴを掌内でジュースにしてしまったり、缶ビールを握っただけで開けたりして(壊して?)しまうのは朝飯前。ジャンボ鶴田との一騎打ちで、セコンドから茶々を入れて来た大仁田厚の顔を掴んでリング内に引っ張り上げ、反対側に投げてしまったこともあった。

 しかし、それ以上に特徴的だったのが手の大きさである。親指から小指の先までのスパンが32センチ、手首から親指の先までが27センチもあった。こちらは別の利点も生んだ。親指と小指で相手の顔を挟み、間の指の爪で相手の額を傷つけ、流血させていたのである。初来日時にも、プライベートで爪を周到に研いでいた事実が報告されている。

 果たして、プロレスで初めて使用された日本武道館大会 は、主催者発表で1万4500人の大入り。当時のプロレスの屋内会場における動員新記録を叩き出した。日本武道館の8つの入り口から入る観客の整理のため、日本プロレスが100名のアルバイトを動員。さらに、120名の警官の応援も頼んだという逸話も生まれた。

 主役のフリッツはメインでジャイアント馬場と3本勝負。実はフリッツはこの6日前に来日し、その翌日、大阪で既に馬場と一騎打ちをしていた。その初戦の模様がこの前日、テレビで録画放送されていたこともあり、馬場の警戒同様、観客の視線もエリックの右手に集中していた。1本目は3分足らずで馬場がチョップから覆いかぶさり3カウントを獲るのだが、気を抜いたその瞬間、下からエリックが馬場の顔面をわしづかみにした。不気味さも伴う攻防を見せたこの試合から、”鉄の爪“は日本でも一気にスターダムに。

 そして、そのクロ―攻撃を正統に受け継ぎ、日米のリングでも躍動したのが、フリッツの息子たち、かつ、今回の映画の主役でもある、エリック兄弟たちだったのである。

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