もはや“推し活”ではなく“パパ活”…投げ銭に高級シャンパンまで乱れ飛ぶ「ファンビジネス」の実状
コスプレイヤーにドはまり
中小企業の会社員で、40歳の独身男性Tさんの“推し”は、女性コスプレイヤーのCさんである。いわゆる“カメラ小僧”であったTさんは、あるコスプレイベントで偶然出会ったCさんに一目惚れ。以後、彼女が参加するイベントには欠かさず参加してきた。CさんはSNSでは数万人のフォロワーを有し、アイドルアニメやソシャゲのキャラに扮し、笑顔を振りまく写真を投稿している。なかには胸や脚を強調した大胆な写真もある。
Tさんにとって、もっとも重要なイベントはCさんの誕生日に開催される生誕祭である。バーを貸し切って行われ、推しがアニメキャラの衣装に着替えて、目の前に現れる。そして、会場に集まった参加者は“エンジェル”などの高級シャンパンのボトルを次々に開けていく。最後は豪華なステージの前にボトルをずらりと並べ、花束を抱えたCさんが満面の笑みで写真を撮る。その笑顔を見ただけで「この日のために貯金をしてきた甲斐があった」と、Tさんは充足感を得るそうだ。
しかし、筆者にはコスプレイヤーというよりは、もはやキャバ嬢の誕生会のようなものにしか思えないのだが……。そう聞くと、Tさんは憤慨してこう話す。
「キャバ嬢なんかと一緒にしないでください! 彼女は頑張っているし、僕はCさんから勇気をもらっているんです。そのお礼にシャンパンを開けるのは当たり前ですよ。彼女が喜んだときの笑顔が本当に素敵だし、イベント後には僕に宛てて長文のメッセージをくれるんです。そのためなら、多少の出費は厭わないんです」
Cさんは定期的にネットライブを行う。そのなかでファンが投げ銭をするのは定番だ。Tさんは決して高給取りではないというが、「周りが1万円を投げるのを見ると、負けじと5万円とか、高い額を投げてしまう」と話す。その分、自分の生活は慎ましやかなものになってしまうというのだが、「Cさんに『ありがとう』と言ってもらえる。それだけで嬉しいから」と、不満はないようだ。
オタクの性質が変わってきた
そうは言うものの、生活費をギリギリまで削って推しに貢ぐ行為は健全といえるのだろうか。長年、アイドル関係のメディアで編集に携わってきたR氏は、ここ10年ほどの間にオタクの性質が様変わりしたと話す。「Aさんは新興宗教にハマっている人と同じ。Tさんは推し活ではなく、完全に“パパ活”になっている」と、切り捨てる。
R氏によれば、一昔前のオタクは、アイドルオタクも、アニメオタクも、周りに理解されなくても、自分が好きなものがあればそれでよかったのだという。アニメオタクもコミックマーケットなどのイベントを除けば趣味を表に出す機会は少なく、たまにオフ会を開く程度で、ひっそりと活動する人が多かったらしい。当時はグッズの種類も少なかったため、オタクを続けても「意外と金がかからなかった」という。
ところが、ここ数年の推し活ブームによって、趣味を隠さず、堂々とカミングアウトできるようになった。町を歩いていると、痛バッグを持ち歩く人はごく普通に見かける。オタクが市民権を得ている証しといえるし、趣味の多様性を認める風潮が広まったという意味でも、歓迎すべき傾向だと筆者は思う。しかし、R氏はこう危惧する。
「『電車男』が2004年にヒットして、深夜アニメが一般層にも視聴されるようになり、2010年代にはあらゆるオタクが市民権を得たと思います。コンビニでもアニメグッズが販売されるようになりましたからね。これ自体はいいことだと思うんです。ただ、これによって『オタク相手の商売は儲かる』という意識が生まれ、オタクをATMとしか思わないような企業や、さきのコスプレイヤーのような個人が増えてしまったのは嘆かわしい。今や、オタクはとんでもなく金がかかる趣味になってしまったと思います」
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