「部下と上司が大部屋で一緒に働いているからオープンな職場」という大きなカン違い 厄介な承認欲求問題とは
4月、多くの学生が卒業し、新入社員として働き始める季節だ。しかし、今年の新入社員は大学生活のほとんどをコロナ禍で過ごし、授業もオンラインがメインのため、対面での人との触れ合いに慣れていない人も多いという。そんな若者たちが特に悩みがちな問題の一つに、会社での上司との距離感があげられる。
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株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実地した「新入社員意識調査2023」によると、新入社員が理想とする働きたい職場の特徴は「お互いに個性を尊重する」が過去最高の50.7%だった。これは2010年調査開始以来で最も多い回答率で、一方、「アットホーム」(37.3%)、「活気がある」(25.3%)、「お互いに鍛えあう」(11.4%)は過去最低だった。
若者たちが「アットホーム」さを敬遠するのは、ずっと上司に見張られている気持ちになるからかもしれない。が、日本企業の会社の多くは、仕切りのない大部屋で上司も部下も一緒に働くスタイル。実はこのスタイルは欧米ではあまり見られず、日本独特のものだという。
組織論、人事管理論を専門にしている同志社大学政策学部教授・太田肇氏は、このような日本企業特有のオフィス形式について、「承認欲求」が大きく関わっていると言う。
承認欲求と大部屋オフィスの関係とは?
『日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―』の著者で、組織研究の専門家である太田氏に聞いてみた。
「グローバル企業の多くは世界共通の職制、人事制度を取り入れており、日本支社でも欧米と同じように個人の分担が明確です。ところがオフィスを見学すると、はっきりとした違いが目に入る。海外では管理職は個室で仕事をするのが普通であり、非管理職のデスクもパーティションで仕切られているのに対し、日本では管理職も大部屋で、デスクも仕切りがないか、あっても高さの低いところが多いのです」
仕事柄、さまざまなオフィスを訪ねる機会がある太田氏は、社内の人々に大部屋の理由を尋ねてみた。すると主に管理職が「大部屋、仕切りなし」を望むからという答えが返ってきたという。
「コロナ禍以前から、日本ではテレワークの導入に賛成しない管理職が多いという話がよく聞かれました。今回のコロナのまん延によって、感染対策として日本でもオフィスに仕切りを設ける企業が増え、日本企業もようやく変わってきたかと思い、さっそくオフィスをのぞいてみました。
すると、たしかに一人ずつ仕切られているのですが、仕切りは透明のアクリル板。これならウイルスの侵入は防げるかもしれないが、視線は防げない。視線を遮らないことはそれほど大切なのか、と思わず苦笑してしまいました」(同)
なぜ、日本の管理職は大部屋で働きたがるのか?
海外のドラマなどで描かれるオフィス風景では、確かに上司には個室が与えられ部下とは明確にスペースが区切られている。
「トイ・ストーリー」などの作品で有名なアメリカのPixarでは、社員一人一人に入社初日から個室が与えられるという。周囲の視線を気にせず思う存分クリエイティブに働けるというわけだ。
一方、「釣りバカ日誌」では1部上場企業の役員である佐々木さんと、万年ヒラ社員の浜崎伝助がフラットに机を並べている。
そもそも、一体なぜ日本企業では管理職が部下と一緒に大部屋で働きたがるのか。
「大部屋で仕切りのないオフィスでは、上司が部下の仕事ぶりを常にチェックできます。そのため部下は、上司の視線や言動をいつも気にしていなければならない。さらに、取るに足らないひと言や、表情、態度、服装、身なりの変化にも部下は耳を傾け、注目する。それが上司の承認欲求を満たしてくれるのです。
加えて、日本では管理職が個室に入らず、大部屋で部下と一緒に仕事をすると、オープンマインドで部下とのコミュニケーションを大切にする民主的な管理職だと評価されがちです。
しかし当然ながら、部下と机を並べて仕事をしているからといって、上下関係がなくなるわけではありません。
テレワークはこうした状況から部下を解放したという面があります。が、それは上司にとっては承認欲求を満たす機会を減らしたともいえる。大部屋への出社を望む上司は、意識しているか、していないかは別として、どこかで部下から常に承認される場を求めているのではないでしょうか」(同)
要するに「大部屋、仕切りなし」、おまけに仕事の分担が不明確で部下が上司に依存するという日本の職場は、上司の承認欲求が自然に満たされる構造になっているのだ。しかも世間では、それが平等主義的だとか、民主的だとか評価されるのだから、上司にとってはいっそうありがたいことだろう。
「上司も部下もフラットな場で働いているから、ウチの職場はオープンなのだ」と悦に入っている上司、役員の方々は、部下もそう思っているかどうかは気を付けたほうがいいのかもしれない。