【小林製薬・紅麹問題】米国で同じことが起きたら倒産確実、危機管理もお粗末…財務状況を分析した専門家の見解は
和解金4500億円
カネボウのケースと違って、今回は死者が出ている点を踏まえ、山田氏は「アメリカで同じことが起きれば、倒産は避けられない」と指摘する。
「1980年代から90年代にかけ、豊胸手術などに使用される米ダウコーニング社製のシリコンバッグによる、乳がんなどの健康被害が発生。被害者から数千件の訴訟を起こされ、その賠償請求額は20億ドル(約3000億円)にのぼりました。当時のダウ社の売上高は22億ドル(約3300億円)でしたが、相次ぐ訴訟を受け、同社は95年に連邦破産法を申請。2000年に被害者へ総額30億ドル(約4500億円)を払うことで和解が成立し、04年にようやく破産法の適用を除外されました。ダウ社のケースも当初はここまで深刻な事態に発展するとは考えられておらず、今回の小林製薬と同じく、危機管理上の対応を誤ったケースの一つに数えられます」(山田氏)
実は多くの企業経営者にとって「危機管理の模範」として知られる有名なケース・スタディーがある。それが米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが起こした「タイレノール事件」という。
「1982年9月、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製の鎮痛剤『タイレノール』を服用した患者が“突然死”を起こす事例が次々と報告。当時の同社CEOはまだ原因が不明だったにもかかわらず、報告直後から『商品を救うよりも、カスタマーを救え』と号令をかけ、自主回収に踏み切った。さらに新聞への一面広告やテレビ放送などを通じ、繰り返し『タイレノールを服用しないこと』と消費者へ注意喚起を呼びかけた。同時に医療関係者などに対し、2か月間で100万回に及ぶプレゼンテーションを行うなどの情報公開にも努めました。原因究明よりも早く、消費者保護の姿勢を徹底させたことで、同社の売り上げは2か月後には事件前の80%にまで回復しました」(山田氏)
長い道のり
当時のジョンソン・エンド・ジョンソンと小林製薬の対応には大きな違いがあるのは否めず、山田氏も「企業の危機管理の対応としてはお粗末だ」と批判する。
「結果的に健康被害の公表までに2カ月を要したことが明らかになっており、“隠蔽”と受け取られても仕方ありません。また同社の小林章浩社長は2月9日に決算発表を行っていますが、この時には既に報告を受けていたにもかかわらず、紅麹について一切触れなかった。無責任極まりなく、もはや経営陣の総退陣は避けて通れず、さらに刑事責任を問われる可能性まで囁かれています。一方で今後、被害者が増えたとしても、同社の財務状況から補償などを滞りなく行うのに支障はないと見られ、この点は被害の当事者からすれば朗報です。ただし一度、失った信頼は取り戻すのは容易ではありません。同社の売り上げが回復するのに最低でも5年、ひょっとしたら10年近くかかるかもしれません」(山田氏)
得意の絶頂で迎えた、突然の“重大過失”に「人災」の面はなかったのか。地に堕ちたブランドイメージを回復するには、被害者と誠実に向き合っていく以外に方法はない。