2年連続センバツ準優勝 報徳学園はなぜ「専用グラウンド」もないのに、名門校と渡り合えたのか?

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選手たちに見せた映画「ロッキー4」

 伝統の力もあって、実力がある選手は入学してくるとはいえ、その大半は兵庫、大阪といった近畿圏出身の選手。健大高崎のように全国各地から選手をスカウティングしているわけではない。

 さらに、報徳学園の野球部OBは、大角健二監督についてこのように話してくれた。

「学校の方針ということもあるのですが、(大角監督は)野球部の指導だけをしていればいいわけではなく、教員の仕事も大変忙しい。今年も、大会直前まで学校の仕事をしていました。過去には、受け持っているクラスの(野球部ではない)生徒が学校に来られなくなってしまって、その対応に追われていたこともあるようです。(報徳学園OBで)大阪桐蔭の西谷(浩一)監督は、自分は教員の会議に出ていたら他の教員から『西谷先生は会議なんか出なくていいので野球の練習をしてください』と言われたと話していました。(大角監督が)監督に就任した時(※2017年の新チームから就任)はプレッシャーもあったと思いますけど、多忙である教員の仕事もしながら、本当によく頑張っていると思います」

 報徳学園が初戦で対戦した愛工大名電(愛知)も、最新の機器などを導入したことが話題となっていた。大角監督は、愛工大名電戦を前に、選手たちに映画「ロッキー4」を見せたという。

「ロッキー4」は、最新の科学技術を駆使したソ連(当時)のボクサー、ドラゴに対して主人公のロッキーが地道なトレーニングによって戦い、勝利するという物語だ。環境的に恵まれなくても、やり方によっては勝てるということを選手たちに伝えたいという思いがあったのだろう。

5試合で失策はわずか「2」

 ただ、決して恵まれない環境の中でも、2年連続で選抜準優勝を達成したというのは明確な強みがある。今大会で特に光ったのは“堅守”だ。5試合で失策はわずかに2。選手たちは、難しい打球を上手く処理していた。

 大角監督は、1回戦後の取材で「守備は伝統的に強みの部分ですのでしっかり鍛えてきました」と話していたが、限られた環境の中でも全国トップの守備力を身につけることは可能であると証明した。

 もうひとつの大きな強みが投手力である。今大会は、エースの間木歩と、ドラフト上位候補の今朝丸裕喜という好投手を擁して、決勝まで勝ち上がった。近年の報徳学園は、毎年のようにプロ注目の投手を輩出しており、ピッチャーの指導を担当している磯野剛徳部長が、外部のコーチなどを訪れ、投手を育成する方法を日々研究している賜物といえるだろう。

 もちろん、報徳学園も伝統を生かした人脈など、他の学校から見れば恵まれた部分があるのかもしれない。それでも、練習環境に恵まれない一般的な学校が参考にできるところも多いのではないか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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